2023年8月 1日

マンションの相続税評価通達の改正と適用対象建物の範囲

 先日、国税庁は、マンションの相続税評価額の算定方法を新たに定める「『居住用の区分所有財産の評価について』の法令解釈通達(案)」のパブコメを開始しました。この通達がこの内容で発遣されれば、2024年1月1日以後、市場価格と乖離していたマンションの相続税評価額が適正化され、マンションを相続する納税者の多くにおいて、税負担が増加することが見込まれます。

 新評価方式では、マンションを建物部分と敷地部分に分け、それぞれの現行の相続税評価額に「補正率」を乗ずることによって評価します。

 この「補正率」は、国税庁が定める4指数(築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度)に一定の係数を乗じて求めた「市場価格の理論値」を示す指標を基礎として算定します。この指標を「評価乖離率」といい、また、「相続税評価額/市場価格理論値」は「1÷評価乖離率」で算定されますが、その指標を「評価水準」といいます。

 「評価水準」が1を超えれば「補正率=評価乖離率」となり、高く評価されている相続税評価額は市場価格の理論値まで減額されます。「評価水準」が0.6以上1未満であれば補正がなく、0.6未満であれば「補正率=評価乖離率×0.6」となり、市場理論価格の6割水準まで増額されます。

 どのようなマンションが適用対象となるかが気になるところですが、この通達案では、新しいルールの適用対象となるのは、あくまで居住用の区分所有建物及びその敷地※1に係る区分所有権と敷地利用権です。いわゆる分譲マンションなど一戸単位で売買されるものが前提で、通達案では、「一棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分一室に係る区分所有権及び敷地利用権」とされています。

 したがって、次のものは適用対象にはなりません。

①事業用土地建物
 事業用の物件は、たとえそれが区分所有建物とその敷地であったとしても、この通達の適用対象外です。

②区分所有建物以外の土地建物
 いわゆる一棟売りされる居住用の土地建物のように、一棟全体が所有され区分所有者がいないものは、居住用であっても適用対象とはなりません。ただし、区分所有建物一棟全体について全戸を区分所有している場合には、一戸一戸を切り売りできるので、適用対象となります。さらに、この場合の敷地利用権については、「評価水準」が1を超えていても、相続税評価額は市場価格の理論値まで減額されず、高いままの評価額に据え置かれるという不利な取り扱いになることに注意が必要です。

③たな卸商品
 不動産事業者が販売目的で所有するたな卸資産に該当するものは、対象には含まれません。

④2階以下の低層住宅
 「地階を除く階数が2以下のもの」は適用対象から除外されています。逆に言うと、3階以上の区分所有住宅は、次の⑤に該当する場合を除き適用対象となります。

⑤3戸以下の建物で全てに親族が居住している住宅
 「居住の用に供する専有部分一室の数が3以下であってその全てを当該区分所有者又はその親族の居住の用に供するもの」は適用対象外です。

 通達案の④と⑤の趣旨は、二世帯住宅を適用対象から外すことです。二世帯住宅は、完全分離型の区分所有登記建物として建てられる場合があり、こうした物件は、いわゆる分譲マンションのような価格形成がなされていないことから、対象から外すことが妥当とされたものです。多くの二世帯住宅は2階建てであることから④により除外されます。たとえ3世代住宅として3階建てのものであったとしても、3戸以下の全部に親族が住んでいれば⑤で対象外となります。

 この改正により、時価と相続税評価額との乖離が相当大きなタワーマンションなどの物件は、時価の6割水準まで評価額が上昇することになり、想定していた節税額が圧縮されることになりそうです。

 ただ、これは戸建てと同じ程度であることから、不動産の取得による節税効果としては他の不動産並みには残ります。つまり、「極めて有利」であった取り扱いが「普通に有利」な取り扱いになるということです。よって、今後の相続対策における中心的な役割はあまり変わらないと考えられます。

 なお、区分所有建物でない一棟買いのマンションは新しいルールの適用対象外となり、時価と相続税評価額の乖離が大きくても是正されることがなく、従前どおりの節税効果を有します。ただし、行き過ぎた節税だと総則6項による否認のリスクが大きくなるので、事前に慎重な検討が必要です。

2023年8月1日 (担当:後 宏治)

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※1 「建物の区分所有等に関する法律」で規定する専有部分、専有部分に係る共有部分の共有持分及び敷地利用権をいいます

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