2021年12月24日

成年被後見人である取締役に対する役員給与は損金に算入されるか

 会社法の改正により、令和3年3月1日以降、認知症などにより事理弁識能力を欠く人であって後見開始の審判を受けた人(以下、「成年被後見人」といいます。)でも、会社の取締役に就任することができるようになりました。改正前の会社法では、成年被後見人は欠格者として取締役になることができませんでしたが、改正後は、その成年後見人が、成年被後見人の同意(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人及び後見監督人の同意)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をすることによって、取締役になることができるようになっています(会社法331の2①)。

 ただし、この規定は、現役の取締役である人が新たに成年被後見人になった場合に、そのまま取締役にとどまれるということを意味しません。

  株式会社と取締役等との関係は、委任に関する規定に従うものとされ(会社法330、402③、478⑧)、民法上、委任は、受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了するものとされていることから(民法653三)、すでに取締役である人が後見開始の審判を受けたことは、取締役の終任事由になるものと解されています。

 そのため、会社の取締役が認知症等により成年被後見人になってしまった場合には、いったん取締役の地位を失い、その後の株主総会で再度就任することが必要になります。

 このようにして、会社の経営者が認知症等により成年被後見人になったとしても、会社の取締役を実質的に継続することができ、役員給与を続けて受け取ることができます。

 問題は、この成年被後見人である取締役に支払われる役員給与が法人税法上の損金に算入できるかです。

 法人税法に係る法令通達は、この会社法改正によって特に変わっていないため、現行の取り扱いがそのまま適用されることになると考えられます。

 そうだとすると、成年被後見人取締役に毎月一定額の役員報酬(定期同額給与)を支払うのであれば、原則として、損金に算入されることになりますが、その額のうちに不相当に高額な部分の金額があれば、その金額は損金に算入されません(法法34①②)。

 不相当に高額かどうかは、形式基準および実質基準により判断します。すなわち、形式的には株主総会等で定めた役員報酬支給限度額を超えているか否かで判断し、実質的には、職務の内容、収益状況、使用人給与の支給状況、類似同業他社の役員給与の支給状況等に照らして判断することとされています(法令70①)。

 課税実務上、この実質基準の運用において、一般的には、同業種類似法人との比準が重視されており、その選定については、同じ国税局管内等における類似業種の法人のうち、主として売上規模等において倍半基準が援用される場合が多く、比準する給与額については、平均値を援用する場合が多くなっています。

 しかし、会社法改正による新たな取り扱いは始まったばかりなので、他社事例等の蓄積は未だ存在していません。将来的には社会通念上適正と考えられる成年被後見人に対する役員給与の相場たるものができるかもしれませんが、それはかなり先のことになると思われます。そのため、類似同業他社の役員給与の支給状況による判定は不可能な状況です。

 ところで、民法上の事理弁識能力は、財産管理能力を基準として評価がされるものであるところ、取締役に求められる能力とは質的なずれがあるのではないかということを理由の一つとして、今回の会社法改正はなされました。そもそも、改正前の会社法は、成年被後見人等と同等の事理弁識能力を有する者が取締役等となることを一律に禁止しておらず、たまたま成年後見制度を利用していることだけをもって欠格条項にしていましたが、改正会社法は、この一律の取り扱いを止め、個別的かつ実質的に是非を考えることとしたのです。

 そして、この個別的かつ実質的な要素は、現行税制が依って立つ「数字による他社との比較」が、問題なくできるものではありません。そのため、将来において相場ができたとしても、個別性が強く、比準することは容易ではないように思われます。

 成年被後見人に対する役員給与の過大性の判断は、現行の課税実務上のルールでは限界があるようです。今後実例が増えてくると、課税庁から新たな取り扱いについての考え方が示される可能性もあるでしょう。

 それまでは、取締役選任の理由と報酬決定の経緯を整理しておきましょう。例えば、成年被後見人である取締役が創業オーナーであるなどの場合には、単に取締役に名前を連ねることだけでも、営業上多大のメリットがある、または従業員の士気があがるなどが取締役選任の理由となると思います。会社と取締役の個別事情と報酬決定の理由を丁寧に説明できるようにしておくことが必要だと考えます。

2021年12月24日 (担当:後 宏治)

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