2021年11月 5日

事業を廃止した子会社の吸収合併で繰越欠損金は引き継げないのか?

 事業継続が困難になった子会社の事業を廃止して、せめて子会社で発生した繰越欠損金を親会社に引き継いで利用したいと考えるのは当然です。特に100%子会社の吸収合併であれば、通常は適格合併となり、その繰越欠損金も引き継げます。

 ところが気になるのがTPR事件※1とPGM事件※2です。どちらも「完全支配関係下の適格合併においても、事業の移転・継続がないとして行為計算否認規定(法法132の2)により繰越欠損金の引継ぎを認めない」とされたものです※3。完全支配関係下の適格合併には事業の移転・継続は法令上の要件とされていませんが、繰越欠損金の引継ぎ可否の判断においては常に求められるものでしょうか?2つの事件はどちらも大企業による多額の繰越欠損金引継ぎ事案であると共に、下記の特殊事情があります。

<TPR事件>
 ・合併前に被合併会社の事業が別のグループ会社に移転している。

<PGM事件>
 ・被合併会社は某大手商社から買収した会社である。
 ・繰越欠損金は主にグループ会社への株式譲渡損から構成されている。
 ・適格合併とするために2段階の合併を実行している。

 以上より、中小企業が実行する典型的な子会社の吸収合併(古くからの子会社で事業から発生した損失が累積しており、その事業を単純に廃止した上で吸収合併する場合で税負担軽減以外の理由がある場合など)であれば、行為計算否認規定の対象となることはないと考えます。但し、別会社に事業譲渡してから抜け殻を吸収合併する、あるいはM&Aで外部から購入した会社を組織再編して合併する、などの状況がある場合は要注意です。繰越欠損金は、合併ではなく会社清算により引き継ぐことも可能ですから、繰越欠損金額が多額の場合には特に注意してプランニングしたいものです。

2021年11月5日 (担当:平野和俊)

1

※1 東京高裁令和元年12月11日判決

※2 2019年に課税処分、2021年4月に東京地裁提訴(日本経済新聞2021年5月11日)

※3 T&A master No.883


ページトップへ