2021年10月 7日

株式交付は行為計算否認規定の対象となるのか?

 令和3年3月1日に施行された改正会社法により、自社株式を対価として他社を子会社とすることを可能にする株式交付制度が創設されました。

1.株式交付の意義
 株式交付とは、株式会社(=親会社P社)が他の株式会社をその子会社(=S社)とするために他の株式会社(=S社)の株式を譲り受け、S社株式の譲渡人に対して、対価として親会社P社の株式を交付することをいいます。(会社法2条32号の2)

 株式交付は、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段ですが、同様の会社法上の制度として、株式交換と現物出資があります。

 株式交換との違いで最大のものは、株式交換は、ある会社を「100%の完全子会社」にする場合だけにしか使えないのに対し、株式交付は、ある会社を「50%以上の子会社」とする場合に利用できるということです。

 また、現物出資との違いは主として手続き面にあり、現物出資を行う場合には、原則として検査役の調査が必要になるなど手続きが複雑となり相当なコストがかかりますが、株式交付は安価で簡単に実行できます。

 株式交付制度は、株式対価または株式と現金の混合対価による子会社株式取得を制度的に認めることにより、大会社のM&Aにおいて活用が期待されている他、中小企業においても事業承継等の様々な課題の解決手段となりうるといわれています。

2.株式交付税制の概要
 株式交付制度の創設にあわせて税制も改正されており、その概要は下記のとおりです。

① 譲渡株主における譲渡損益の計上は、原則として、繰り延べられる※1

② 親会社P社における子会社S社株式の取得価額は、原則として、譲渡株主の帳簿価額が引き継がれる※2

③ 親会社P社株式が取引相場のない株式である場合、株式交付により取得した子会社S社株式が著しく低い価額で受け入れたものであるときは、その相続税評価において、相続税評価額と帳簿価額との間の差額(=含み益)について法人税等相当額37%の控除はできない(財産評価基本通達186-2)

④ 親会社P社は確定申告書に、(ⅰ)株式交付計画書、(ⅱ)譲渡株主から移転を受けた資産の種類等の明細書及び(ⅲ)交付した資産の数又は算定の根拠を明らかにする書類を添付して提出する(法規35五・六)

3.株式交付と行為計算否認規定
 株式交付をした親会社P社が確定申告書に添付する書類として目を引くのは、上記「④(ⅲ)交付した資産の数又は算定の根拠を明らかにする書類」です。これは、具体的には、専門家が作成した「株式価値算定書」を指します。合併や株式交換など他の組織再編成においては「株式価値算定書」の提出は求められていませんが、株式交付では義務とされているのです。

 その理由として、財務省主税局は、株式交付制度は他の組織再編成と異なり自由度が高く租税回避的な利用が懸念されるので、実態を把握するための一つの手段として追加したと説明しています※3

 そうなると次に気になるのが、株式交付について、包括的な租税回避防止規定である行為計算否認規定が適用されるかどうかです。

 現行法令上、税負担を不当に減少させる結果となる株式交付を否認する明文規定はありません。既存の法人税法132の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)は、合併・分割・現物出資などを組織再編成として一括して規制していますが、この条文については今回改正がなかったことから、株式交付はこの条文に含まれておらず、適用対象ではないように読めます。

 しかし、財務省主税局は、株式交付は現物出資の一種と考えられる※4として、会社法上は現物出資規制の対象外とされているにもかかわらず、法人税法132の2の適用ないし類推適用の対象になると判断しています※5

 つまり、法人税法上、株式交付は現物出資の一種として行為計算否認規定の対象となります。同様の規定は所得税法にも相続税法にもある(所法157④、相法64④)ので、株式交付はどちらにおいても行為計算否認規定の対象になると考えられます。そのため、株式交付を活用して所得税や相続税の税負担の軽減を考える場合には、税務署長の「伝家の宝刀」によって否認されないよう注意が必要です。

2021年10月7日 (担当:後 宏治)

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※1 現金等の株式以外の交付資産の割合が20%以下の場合に譲渡損益が繰り延べられます。個人株主の場合は譲渡がなかったものとみなされ(措法37の13の3 ①)、法人株主の場合は簿価で譲渡したものとされます(措法66の2の2 ①)。

※2 子会社S社株式を50人未満の株主から取得した場合にはその株主の帳簿価額、50人以上の株主から取得した場合にはS社簿価純資産価額を基にして計算した金額が、親会社P社における子会社株式の取得価額とされます(措令39の10の3④一)。

※3 石井隆太郎ほか『令和3年版 改正税法のすべて』376頁・大蔵財務協会

※4 石井ほか・前掲注3・すべて376頁。株式交付は、子会社S社の株主がS社株式を親会社P社に給付して、P社株式の交付を受ける行為であることから、現物出資の一種であることには変わりがなく、したがって、組織再編成の範囲に株式交付を追加する改正は行われていないと説明しています。

※5 石井ほか・前掲注3・すべて664頁

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