2015年4月 7日

平成30年以降、生命保険契約の契約者変更情報が税務当局に筒抜けに?

 平成27年度の税制改正法案が可決され、生命保険契約の契約者の変更が行われた場合に、保険会社に対して法定調書の提出を義務付ける新たな制度が整備されることとなりました。

可決された内容は下記の通りです。

① 保険会社は、契約者が死亡して契約者の変更手続きをした場合には、契約者の変更情報及び解約返戻金相当額を記載した調書を、翌年1月31日までに税務署に提出しなければならない。

② 税務署に提出される生命保険金の支払調書には、保険契約の契約者変更があった場合には、新たに変更前の契約者の情報、最後の変更後の払込済保険料の額などを記載しなければならない。

 上記改正は平成30年1月1日以降に行われる契約者変更から適用されます。改正の趣旨としては税務当局が契約者の変更情報を把握することで相続税及び贈与税の課税漏れを防止するためです。それではどのようなケースで課税漏れが生じているのでしょうか?

〈ケース1 父の死亡に伴い、父から子へ契約者を変更した場合の相続税の課税漏れ〉
 父が契約者(=保険料負担者)で子が被保険者である生命保険契約で、父が死亡して子が契約を引き継ぐために契約者を変更した場合、本来はその時点での解約返戻金相当額が相続財産として相続税の課税対象となります。しかし、保険契約者の変更だけでは支払調書は提出されないので、上記の事実を税務当局は把握することが困難となり、相続税の課税漏れにつながってしまうケースです。

〈ケース2 夫から妻へ契約者変更後、妻が受け取る保険金についての贈与税の課税漏れ〉
 夫から妻に契約者を変更した後に、妻が満期保険金や解約返戻金などを受け取った場合、本来は変更前の契約者である夫が支払った保険料に対応する保険金の部分は夫から妻への贈与として、贈与税の課税対象となります。しかし、支払調書は支払時点での契約内容にて作成されるため、過去に契約者変更があったことを税務当局は把握し難く、贈与税の課税漏れにつながってしまうケースです。

〈ケース3 父が亡くなる前に、父から子に契約者を変更した場合の相続税の課税漏れ〉
 父が契約者(=保険料負担者)で子が被保険者である生命保険契約を、事前に父から子に契約者を変更しておいて父が亡くなった場合も、父が負担した保険料に対応する部分は相続財産とみなして相続税の課税の対象となります。しかし契約者の変更時点では支払調書は提出されないことと、その後保険金を受け取る際に提出される支払調書には、父から子に契約者が変更された情報が記載されないことにより、ケース1と同様に相続税の課税漏れにつながってしまうケースです。

 上述の課税漏れにつき、上記改正①で〈ケース1〉の課税漏れを、上記改正②で〈ケース2〉の課税漏れを防止する格好となっており、また〈ケース3〉についても上記改正②より、完全ではないものの、「ある程度」課税漏れを防止しております。「ある程度」としているのは、保険金受取時に提出される支払調書には過去に父から子に契約者の変更が行われた情報の記載がなされるので、少なくとも事後的に相続財産の課税漏れを税務当局が把握できますが、5年(場合によっては7年)経過している場合には遡って課税できないケースも想定できるためです。その意味で完全に課税漏れを防止するには至っておりませんが、それでも課税漏れを何とか防止したいという課税当局の意向が詰まっている改正内容と言えるのではないでしょうか?

2015年4月7日 (担当:齊藤 啓明)

 

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