2015年4月 7日

改正税法から明らかとなった海外移住時課税特例に係る「非居住者が有価証券を相続等した場合のみなし譲渡課税」の全体像

 平成27年度税制改正法案が平成27年3月31日に国会で可決され、その詳細が明らかとなってきました。特に海外移住時課税特例の一環として定められる「非居住者が有価証券を相続等した場合のみなし譲渡課税」について大綱では概要しか記載されていませんでしたが、改正税法により制度の全体像が下記の通りであることが判明しました(分かりやすいように相続時だけにフォーカスして説明します)。

▶ 1億円以上の有価証券等を有する居住者(相続前10年以内の国内居住期間が5年以下の者を除く)の有価証券が、平成27年7月1日以後の相続により非居住者に移転した場合には、被相続人が相続時の時価で有価証券を譲渡したとみなして、被相続人の最後の確定申告(準確定申告)をする。

▶ この準確定申告の期限までに担保提供して、かつ毎年3月15日までに継続適用届出書を提出することにより、相続から5年後(届出により10年後)まで納税猶予を受けることができる。

▶ 全ての非居住者相続人が相続から5年以内(納税猶予が届出により10年後とされた場合は10年以内)に帰国した場合における未売却の有価証券に係る譲渡課税は取り消す。

▶ 納税猶予を受ける所得税は、被相続人に係る相続税申告において債務控除の対象とならない。

▶ 所得税の納税猶予が取り消された場合には、相続税の債務控除の対象となるため、4か月以内に相続税の減額更正を請求できる。

 こうして見ると、「非居住者が有価証券を相続する場合でも、納税猶予の申請をして売却せずに10年以内に帰国すれば問題ない」気もします。しかし居住者の共同相続人は、非居住者の相続人が帰国するまで気が気でなりません。納税猶予中に非居住者相続人が有価証券を売却したり、10年以内に帰国しなかったり、継続適用届出書の提出を失念したりすると、納税猶予は取り消されて被相続人の譲渡所得税が復活して、各相続人は法定相続分に応じて納税義務を負担する必要があります。もちろん遺産分割協議書で非居住者相続人負担とする合意も当事者間では有効ですが、税務署には対抗できません。

 相続人に非居住者がいる場合には、そもそも非居住者が有価証券を相続するのか、納税猶予の申請をするのか、納税猶予が取り消された場合に備えて遺産分割協議の内容をどうするのか、新たな悩みが増えたようです。

2015年4月7日 (担当:平野 和俊)

 

ページトップへ