2008年11月27日

節税のため一時的に従業員に株式を売却した時の課税関係~ある契約が
信託契約とされる場合のメルクマールは何か?

相続対策のため、オーナー(甲)が持株会に自社株を売りたいが、持株会はまだ設立されておらず、その設立には時間がかかる。オーナーには残されている時間があまりない。そこで、一時的に会社の従業員(乙)に株式を売却し、同時に持株会設立を停止条件とした転売予約契約を結んでしまおう。

そう考えて実行した直後に、オーナー(甲)が死亡してしまった。相続人はオーナー(甲)の相続財産から従業員(乙)に売却した自社株を除外して相続税を申告したところ、後日の税務調査で、この一時的な売却は認められないと否認された。

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 先日明らかになった判決(東京地裁平成20年10月24日判決)では、上記事例が争われ、納税者が勝訴しました。その結果、株式が相続財産に含まれることを前提とする相続税の更正処分が取り消されました。

 この争いで注目されるのが、課税当局が、上記の一連の契約を、「寄託契約」または「信託類似の契約」だと主張していることです。もしも、これらの契約が、「寄託契約」または「信託類似の契約」と認定されたならば、株式の譲渡はなかったこととなり、相続税が課されるところですが、この点、判決では、当事者の締結した契約を「売買契約」と認定して、どちらの主張も退け、納税者を勝たせています。  では、一般にどういう要件があれば、その契約が信託契約と認定されるのでしょうか?信託とそれ以外の契約を区別する基準は何でしょうか?

 この問題については、明確な答えはまだ存在しません。

 ただ、公共工事の前払金保証制度に関する事件で、「注文者を委託者、前払金債権を信託財産として、これを工事の必要経費の支払いに充てることを目的として信託契約が成立した」と最高裁が認定し、信託財産である預金が受託者である請負人の破産財団に組み入れられないとした事例があります。この事例では、契約当事者には明示的に信託契約を締結する意思表示はなかったものの、救済法理として最高裁が信託を認定し、委託者である注文者が保護されています。

 この判決等を参考にすると、一応、次の要件が満たされれば、ある契約が信託と認定されると考えられます。

①受託者に分別管理義務が課せられていること。
②信託財産が一定の目的にしか使われないという「使途管理」が合意されていること。

 本件事例に当てはめてみると、従業員乙に分別管理義務(具体的には、自己の財産との物理的な区別と受領する配当等の計算上の区別等)が課せられていることと、円滑な事業承継という目的のため持株会以外には売却しないことの合意が認定されれば、「信託」として認定される可能性が大きくなるでしょう。

 しかし、従業員乙には、契約上、分別管理義務が課されているわけではなく、また、東京地判がいうように、従業員乙には経営参与権、配当受領権、自己計算までが認められる以上、本件契約を「信託」と認定することはできないでしょう。

 なお、上記メルクマールは、学説判例で認められる「救済法」として信託契約を認定する場合のものであり、ただちには課税上の信託契約の認定基準とはなりえないことには留意が必要です。すなわち、我が国の課税実務上、当事者が選択した法形式がそのまま認められるのが原則で、課税当局がある契約を任意に別種の契約と読み替える(法律関係の再構成といいます。)ことはできません。例外的に、それができる場合とは、契約が仮装や虚偽表示等の場合で真実の法律関係が存在しないときに限られます。

 そうはいうものの現実に従業員に一時的に預けたという実態があれば、法律関係が再構成されるリスクは大きいといえます。したがって、相続対策のため、第三者に株式を一時的に譲渡する等の場合には、契約内容を慎重に吟味して、課税上、信託契約等と認定されないよう注意することが必要です。

2008年11月27日(担当 後 宏治)

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