2008年11月27日

受益者等の存しない信託で子供が生まれた場合の課税関係について

信託法により将来生まれてくる人を受益者とする信託を設定することが可能となりました。このように受益者が不特定・不存在の信託は法人税法上受益者等の存しない信託とされ、信託設定時において受託者に対し受贈益につき法人税が課税されます。そして、受益者となる人が生まれてきた段階では、受益者等課税信託に移行し、受益者は信託財産を簿価で引継ぐことになるので受贈益課税は生じません。これは受託者にいわば代替的に課税を行っているものと考えられるからです。ただし、受益者等となる者が委託者の親族である場合には、次のような特別な取扱いがされます。

 まず、受託者(受託者が個人以外の場合には個人とみなされます。)に対して、受贈益について相続税もしくは贈与税が課税されます(相法9の4)。これは、受益者等となるべき者が信託効力発生時に委託者の親族である場合には、法人税と相続税・贈与税の税率格差を利用した租税回避を防ぐためです。さらに受益者が受益権を取得する時に、受益者に対して贈与税が課税されます(相法9の5)。この取扱いは、受益者が孫といったケースでの相続税の世代飛ばしに対処することを目的としております。
 受託者と受益者の両者に課税関係が生じることは、相続税法基本通達「法第9条の5の規定の適用がある場合」(相基通9の5-1)において確認できます。すなわち、相続税法第9条の5の規定は、相続税法第9条の4の規定の適用の有無にかかわらず適用されることを明らかにしています。この取扱いにより、相続税法第9条の5の規定を相続税法第9条の4の規定と合わせて適用することにより課税漏れを防ぐことが狙いであると考えられます。
 ところで、まだ生まれていない子を受益者とした場合についても、受託者が課税されたのち受益者が課税されるのでしょうか。今後、様々な形で信託が活用されることが期待されているので、少子高齢化社会ではこのような信託もニーズとしてあるかもしれません。
 この点について、課税当局は法令解釈通達の説明の中で、この場合にも相続税法第9条の5の規定を適用する(すなわち、受託者と受益者の両方に課税を行う。)という見解を示しています。その根拠として、「条文上、法第9条の4の規定の適用があったものについて適用しない旨の規定がないこと」のみを挙げています。
 しかしながら、受益者となる者が委託者の子である場合には、受託者に対してのみ課税しさえすれば、税率格差を利用した租税回避を防止しており、かつ相続税の世代飛ばしも生ずる余地がないため、課税漏れは生じないのではないかという疑義が生じます。
つまり、受益者が存しない信託について受益者等が存することとなった場合の課税関係と比較すると、受益者である子に課税することはバランスが保たれていないと考えられます。

 いずれにせよ、受益者等の存しない信託において将来生まれてくる子を受益者等とする信託行為は、受託者と、子の両者が課税対象となることは否定できません。したがって、実務上、このような信託を設定する際には慎重に検討する必要があると考えられます。

2008年11月27日(担当 藤田 賢)

ページトップへ