2006年11月24日

平成18年度以後に取引相場のない株式を相続等する場合の留意点

国税庁は、平成18年7月7日付け「会社法の施行及び法人税法関係法令の改正に伴う取引相場のない株式の評価における経過的な算出方法等について(情報)」(以下「情報」という。)及び平成18年10月27日付け「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」(以下、財産評価基本通達を「評価通達」といい、この改正後の評価通達を特に「改正後評価通達」という。)により、会社法施行等の影響を受けた取引相場のない株式の評価について、平成18年度中の経過的な取り扱いと平成19年度以後の取り扱いを定めました。本稿では、それら取り扱いのうち、「剰余金の配当」を中心に実務に与える影響を考察します。

1.評価通達での定め
評価通達においては、取引相場のない株式は類似業種比準価額方式等により評価し(評価通達179)、類似業種比準価額方式は株価、配当金額、年利益金額、純資産価額により算出する(評価通達180)と定められています。

2.会社法での取り扱いと疑問点
ところで会社法においては、①株主総会の決議により何度でも配当を行うことができるようになるとともに、②旧商法における利益の配当、中間配当、資本及び準備金の減少に伴う払戻しが、「剰余金の配当」として整理されたため(会社法453、454、旧商法290、293の5、375等)、「剰余金の配当」を単純に「利益の配当」と読み替え、類似業種比準価額方式における配当金額として扱ってよいかどうか、疑問が生ずることとなりました。

3.平成18年度中に相続、遺贈又は贈与があった場合の取り扱い
平成18年度中においては、上記の疑問は、決算期が5月以後の会社の株式について、決算後に相続等が発生した場合に具体化します。相続税等の課税時期の直前期末が平成18年5月1日(会社法施行日)以後となり、「剰余金の配当」が発生するためです。
情報においては、直前期末が平成18年5月1日以後の場合、①直前期の配当金額を、「直前々期に係る定時株主総会の日の翌日から、直前期に係る定時株主総会の日までの間に配当の支払決議がされた配当金額の合計額」とし、経過的に配当決議日基準とでもいうべき基準によって定時株主総会の日をもって期を区切り、複数回なされうる配当がどの期に属する配当かを明確化するとともに、②「(注)その他資本剰余金を原資とする金額を除く。」との注書を付すことでその他資本剰余金を原資とするものは「資本の払戻し」とし、配当金額に含めないことを明確にしました。
なお、決算期が1月から4月の会社及び決算前に相続等が発生した会社については、直前期末が会社法施行前であり、「剰余金の配当」という概念がないため、従来通りの扱いとなります。

4.平成19年度以後に相続、遺贈又は贈与があった場合の取り扱い
平成19年度以後についても、直前期末が平成18年5月1日以後の場合、取り扱いが問題となります。
改正後評価通達183(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)において、配当金額は、①「各事業年度中に配当金交付の効力が発生した」、②「剰余金の配当金額(資本金等の額の減少によるものを除く。)」とされています。ここで、「配当金交付の効力が発生した」日とは、株主総会で決議した「剰余金の配当がその効力を生ずる日」(会社法454①)をいい、「資本金等の額」とは法人税法に定める「株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額」(法法2十六)をいいます。その配当が、「資本金等の額の減少によるもの」であるか否かの判定については、UAPレポート「資本剰余金を配当した場合の課税上の取扱い~資本の払戻しとは何か?」をご参照下さい。

5.実務に与える影響
上記取り扱いのうち、実務的に影響が大きいのは、「資本金等の額の減少による」剰余金の配当(平成18年度中においては「その他資本剰余金を原資とする」剰余金の配当。以下同じ。)が、評価通達上の配当とされないことだと思われます。
従前の取り扱いにおいては、配当がなく赤字の会社(注1)は評価通達上「比準要素数1の会社」として、Lが0.25とされるところ、配当があったことによって、一般の評価会社として評価され、結果として評価額が抑えられた、というケースもあったかと思います。
しかしながら、今後の取り扱いにおいては、その他利益剰余金がマイナスの会社がその他資本剰余金を原資として配当を行った場合、その配当の全額が、「資本金等の額の減少による」剰余金の配当とされる場合には、評価通達上の配当とされず、結果、「比準要素数1の会社」としてLを0.25とする高い株式の価額で評価せざるを得ないと思われます。
取引相場のない株式について、相続、贈与等の予定がある場合には、事業計画、承継計画等により、「資本金等の額の減少によ」らない配当の見込みについて、事前に今まで以上の十分な検討・対策が必要です。

注1 厳密には、類似業種比準価額方式における3つの比準要素(1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額)について、直前期末を基として計算した場合に2つが0であり、かつ、直前々期末を基として計算した場合に2つ以上が0である会社であって、株式保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前又は休業中の会社、清算中の会社、のいずれにも該当しないもの。

2006年11月24日(担当:吉岡純男)

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