2006年10月19日

会計上の「のれん」と税務上の資産調整勘定の差異に要注意

法人が非適格合併や事業の譲受けによって資産や負債の移転を受けた場合にパーチェス法(売買処理法)による会計処理を行うと、合併法人等が移転を受けた資産・負債の時価純資産価額と交付対価の額との間に差額が生じることがあります。今までは、この差額(のれん)を税務上どう処理すればよいのか、明確な規定が存在しませんでした。ところが、①平成18年4月1日以後開始する事業年度から企業結合会計基準が適用され、企業結合が「取得」と判断されればパーチェス法による会計処理が強制されることとなったこと、②会社計算規則において、合併等に際して時価で取得原価を測定すべき場合には「のれん」の計上が認められたこと、の2点を契機として、平成18年度税制改正において、これらに対応する規定が創設されました(法法62条の8)。

これは、非適格合併等により合併法人等が交付した対価の額が、移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える場合のその差額(資産調整勘定)を5年間の月割りで損金算入するという規定ですが、税務上の資産調整勘定と会計上の「のれん」とでは、以下のような差異が見られますので注意が必要です。

(1)寄附金
 資産調整勘定の金額からは支出寄付金の額を除くとされていますので、事業をその価値よりも高額で買い取ってきた場合の差額部分は資産調整勘定ではなく寄附金となり、寄附金の損金不算入の適用を受けるものと考えられます(法法62条の8①)。

※時価純資産価額50、価値80の事業を対価100で買った場合

<会計処理>
(借)純資産
50
(貸)対価
100
のれん
50
<税務処理>
純資産
50
(貸)対価
100
資産調整勘定
30
寄付金
20
←損金不算入

(2)支払対価の著しい変動
 合併等の対価として交付する資産が株式である場合には、企業結合会計基準により、交付対価の額は原則として約定時の価額で算定することとされていますが、税務上は交付時の価額により算定しますので、約定時と交付時で価額が異なる場合には、会計と税務で交付対価の計上額が異なることになります。また、税務上、交付資産の価額が契約から交付までの間に2倍超値上がりした場合には、その値上がり部分相当額(資産等超過差額)を資産調整勘定から除くこととされています。いずれにせよ、交付資産が値動きの大きい資産である場合や、契約から交付までの期間が長い場合には、交付資産の価額の動向に十分注意する必要があります(法令123条の10④、法規27条の16一)。

※交付株式の約定時の価額が100、交付時の価額が210(2倍超値上がり)の場合

<会計処理>
(借)純資産
50
(貸)対価
100
のれん
50
<税務処理>
純資産
50
(貸)対価
210
資産調整勘定
50
資産等超過差額
110
←償却不可

(3)欠損金代替額
 合併又は分割による移転純資産の価額と交付対価との差額のうち、実質的に被合併法人又は分割法人の欠損金額相当額と認められる部分も資産等超過差額とされ、償却の対象になりません。例えば、欠損金を有する会社を吸収合併する場合で、合併対価が移転純資産の価額を超えるときは、その欠損金は合併法人の会計上「のれん」として計上されますが、税務上は、この合併が非適格合併であるときは、上記の「のれん」のうち実質的にその被合併法人の欠損金額に相当する部分からなると認められる金額は資産調整勘定に含まれず、損金算入できません。ただし、その欠損金額が移転事業から生ずる収益によって補填される見込みがある場合のその補填見込みがある部分は、資産調整勘定に含まれます(法令123条の10④、法規27条の16二)。

※欠損金40を有する会社を対価130で非適格合併した場合(欠損金の補填見込みなし)

<被合併法人のB/S>
(借)純資産
110
(貸)資本金
150
欠損金
40
<合併法人の会計処理>
純資産
110
(貸)対価
130
のれん
20
<合併法人の税務処理>
純資産
110
(貸)対価
130
資産等超過差額
20
←償却不可

(4)償却期間等
企業結合会計基準では、「のれん」は20年以内の期間で規則的に償却することとされており、金額に重要性が乏しければ一括費用処理も認められていますが、税務上の資産調整勘定は5年間の月割償却しか認められておりませんので、会計処理と税務処理が異なる場合には別表調整が必要となります。なお、この規定は損金経理要件のない強制償却ですので、会計処理に関わらず、資産調整勘定のうち一定の金額が毎期必ず損金算入されます。(法法62条の8④⑤)

以上、会計上の「のれん」と税務上の資産調整勘定の違いを見てきましたが、「のれん」は単純に貸借差額により算出されるのに対し、資産調整勘定は寄附金・値上がり益・欠損金相当額の利用防止など課税政策上の事情を含む概念であるため、税務上損金算入されるのは、結局「のれん」のうちその資産価値について合理的な根拠を有する部分だけとなりますので、課税リスクを避けるためには、対価算定の根拠資料を完備しておくこと等の対応が必要となります。

2006年10月19日(担当:小林 望)

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