2006年11月24日

資本剰余金を配当した場合の課税上の取扱い~資本の払戻しとは何か?

(1)大きく変わった「利益の配当」
旧商法の利益の配当とは「ある決算期に関する利益を配当する」というものでしたが、会社法では「利益の配当」の概念がなくなり、「剰余金の配当」制度に統合されました。ここで、「剰余金の配当」とは、「剰余金の配当」をする時の株主に一定の金銭等を交付することをいいます 。
また、会社法上、「剰余金の配当」は分配可能額の範囲内であれば足り、その財源がなんであるかは問題とされません 。

すなわち、「剰余金の配当」に際して、その他利益剰余金・その他資本剰余金のいずれの剰余金をどれだけ減少させるか(=配当原資の決定)については、会社が任意に定めることができ、かつ、その決定機関について会社法は特に定めを置いておらず、取締役会のほか、代表取締役等が決定することができます 。

したがって、会社は、分配可能額の範囲内で資本剰余金からも「剰余金の配当」をすることができます。
以上のことは、①株主に対する資本の払戻しと②株主に対する利益の配当は、会社法の下、「剰余金の配当」として一本化されたことを意味します。

(2)剰余金の配当にかかる税制改正
ところで、「資本の払戻しについては課税しないが利益の配当については課税する」という命題は、法人税法における大原則とされています。

したがって、法人税法上、「剰余金の配当」についても、①資本の払戻しと②利益の配当に区分しなければなりません。

この点、平成18年度の税制改正により、会社法の「剰余金の配当」は、その原資の区分に応じて①資本の払戻しと②利益の配当に区分されることになりました。その具体的な内容は次のとおりです 。 
①まず「剰余金の配当」のうち、資本剰余金の額の減少に伴うものを「資本の払戻し」とし、それ以外の「剰余金の配当」(利益の配当)と明確に区別します(法法24①三)。

②次に「資本の払戻し」については、資本金等の額の払戻部分(=減資資本金額)と利益の分配部分とに区分します。この区分はプロラタ計算(簿価純資産に占める減少した資本剰余金の額の比で資本金等の額を按分する。)で行います(法令8①十九)。

③そして、資本金等の額の払戻部分(=減資資本金額)を資本金等の額から減少させ(法令8①十九)、利益の分配部分を利益積立金額から減少させ(法令9①七)ます。

④最後に、剰余金の配当のうち、「資本の払戻し」以外の剰余金の配当はその全額を利益積立金額から減少させます(法令9①七)。

この取扱いは複雑なようですが、簡単に言うと、剰余金の配当(=株主に交付された金銭等)を3つに区分するだけの話です。

すなわち、まずその原資に着目して、①「資本の払戻し」と②利益の配当に区分し、さらに①「資本の払戻し」を①-1「減資資本金額」(=資本剰余金中の純粋な払込資本の取崩額と見なされる部分)と①-2「資本の払戻し-減資資本金額」(=資本剰余金中の利益の配当額と見なされる部分)に区分します。その結果、「剰余金の配当」は、①-1「減資資本金額」、①-2「資本の払戻し-減資資本金額」および②利益の配当の3つに区分されます。

剰余金の配当を行った会社は、①-1「減資資本金額」を資本金等の額から減額し、①-2「資本の払戻し-減資資本金額」および②利益の配当の2つの合計額を利益積立金から減額します。

剰余金の配当を受け取った株主は、①-1「減資資本金額」に対応する部分は譲渡対価、①-2「資本の払戻し-減資資本金額」の対応部分はみなし配当、②利益の配当対応部分は単なる配当として課税されます。そして、受取配当金の益金不算入の対象となる金額は①-2(みなし配当)と②(配当)の合計額です(法法23①一、24①三)。

なお、UAPレポート「平成18年度以後に取引相場のない株式を相続等する場合の留意点」で説明されているように、平成19年以後の類似業種比準価額の算定上、比準要素である配当からは「資本金等の額の減少によるものを除く」ことされていますが、上記区分で言うと、①-1「減資資本金額」が評価通達の配当から除かれることになります。したがって、改正後評価通達にいう配当は、①-2「資本の払戻し-減資資本金額」と②利益の配当の合計額を意味することとなり、法人税法上配当として課税される部分に一致することになります。

(3)剰余金の配当原資の特定はどのようにするのか?
剰余金の配当を受け取った株主が上記の税務処理を行うためには、第一に、剰余金の配当原資を特定しなければなりません。

そこで、剰余金を配当する会社は、株主が処理に困らぬよう、会社の意思決定機関で定めた配当の原資をすみやかに公表することが、公正なる会計慣行上望ましいとされています(企業会計基準適用指針第3号「その他の資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」第16項)。
具体的には、以下により配当原資が明示されますので、これらにしたがい配当原資を特定することになります 。

税務上も配当原資の特定は上記会計慣行に従うことになります 。したがって、株主資本等変動計算書をみて、「剰余金の配当」のうち、利益剰余金を減少させているものについては配当として処理し、資本剰余金を減少させているものについてはプロラタ計算で資本の払戻し部分と配当部分を区別して譲渡対価とみなし配当として処理することになります。

2006年11月24日(担当:後 宏治)

ページトップへ