2005年11月16日

最高裁判決

~非上場株式純資産価額方式の42%控除の可否と実務~

先の平成17年11月8日に、最高裁判所第三小法廷は、非上場株式の売買価格決定における純資産価額法の適用上法人税等相当額の控除(以下42%控除という。)を認める注目すべき判断を示しました。

この判決は、税務署が低額譲渡であると否認した個人の非上場株式売買で、原告が非上場株式の時価純資産価額による評価額では42%控除を認めるべきであるとして争っていたものです。

最高裁が42%控除を認めた理由は以下のとおりです。

1.財産評価基本通達(=評基通)の定める非上場株式の評価方法は、相続等における財産評価手法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しているものであるから、一定の修正(土地等の時価評価)がなされた1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、所得税法上の時価に当たる。
2.取引が行われた昭和62年当時では、所得税基本通達には、1株当たりの純資産価額の評価に当たり法人税額等相当額を控除しないことが規定されておらず、そのため、所得税法の時価の算定上、42%控除が不可能であることを関係通達から読み取ることは、一般の納税義務者にとっては不可能である。
3.一般にその取引の当事者は通達の定める評価方法に関心を有し、その評価方法が取引の実情に影響を与え得るものであったことは否定し難く、これとかけ離れたところに取引通念があったということはできない。
4.したがって、営業活動を順調に行っている会社の株式であっても、法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は、昭和62年において、一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致し、所得税法上の時価にあたる。
非上場株式の所得税法上の時価評価については、土地と有価証券の時価を評基通によらず適正に計算することを条件に、評基通による純資産価額による評価が一般にそのまま妥当なものとして取り扱われてきていました。ところが、平成に入り、課税庁サイドの解説書に42%控除を認めない旨の記載がなされ、その後、平成12年の通達改正により所得税の課税における1株当たりの純資産価額の評価に当たり42%控除を認めないことが規定されました。

最高裁は、所得税法上の純資産価額の算定上、42%控除ができないことが改正前通達にはどこにも書いておらず、また、取引通念は、その記載のない通達に添ったものであるとして、42%控除による評価は合法であると判断したものです。

この判断は、評価通達の事実上の効果を法律上の効果にまで高めたと評すことができます。最高裁のロジックでは、評価方法を通達に定めた後に多くの人が課税庁による否認を恐れてその通達に従い取引を行えば、たとえ、その評価が適正なものでなくても、「取引通念」が形成されていたとして、それに従わない取引は全て違法なものとなります。

この判決をもとに、今後の非上場株式の売買実務において42%控除が問題なく認められるのでしょうか?この点については通達が改正されない限り難しいと考えます。なぜなら、最高裁は、42%控除は昭和62年当時において合法であったといっているだけで、現在の通達についての是非を直接判断しているわけではないからです。また、42%控除を認めない現行通達が取引上最大限考慮されている実務を考えると、現時点の取引通念は42%控除を行わないものであり、現時点の当事者の意思も42%控除を行わないと考える余地が十分にあるからです。

では、通達が改正される可能性はあるのか?最高裁が指摘しているように、42%控除の趣旨を「個人が財産を直接所有し、支配している場合と、個人が当該財産を会社を通じて間接的に所有し、支配している場合との評価の均衡を図るためであり、評価の対象となる会社が現実に解散されることを前提としていることによるものではない」とするならば、42%控除不可の理由として「会社の清算を前提とした法人税額等相当額を控除した純資産価額で株式を売買する取引は通常考えられず,これを控除することは不合理である」としていた課税庁の説明は苦しくなります。財産の間接所有による利用制限に係る減額は評基通による純資産価額の計算上当然に認められるべき本質的なものであることからすると、現行所得税通達・法人税通達が評基通の適用を認めている以上、取り扱いを変更し42%控除を認めるという選択肢を検討すべきであると思われます。

2005年11月16日(担当:後 宏治)

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