2005年11月16日

非上場株式の時価評価と評価時点

~早く引き渡さないと評価額が変わる?!~

非上場株式を法人間で売買する場合には、受贈益課税や寄付金課税を避けるために譲渡時の時価で取引を行うのが通常ですが、非上場株式はその名のとおり取引相場がありませんので、売買価格を決めるために時価を評価するという作業が必要になります。

複数ある評価方法のうち純資産価額方式は、株式発行会社の純資産価額を基に時価を算定する方式ですが、税法上時価評価に関する規定が少ないため、詳細な点は手探りで評価せざるを得ない面がありました。

今回紹介する事例(東京地裁平成15年7月17日判決)は、非上場株式を純資産価額方式により時価評価する際に参考となる判示が多数含まれています。争いの詳細は省略しますが、法人間における非上場株式の譲渡につき、その売買価格の妥当性をめぐって評価方法や評価時点が争われた事例です。

まず、非上場株式の売買価格が適正かどうかは、株式の「引渡時」の時価と売買価格を比較して判定するとされています。純資産価額方式は大変煩雑な評価方法なので、実務上は引渡時ではなく、発行会社の直前期末を基準として評価することが多いのですが、低額譲渡か否かを判定する場合の時価は、あくまで株式引渡時の価額によることになります。  株式引渡しまでに引渡時の時価を算定して売買価格を決定するなど不可能ですから、実務的にはかなり無理があります。しかしこの判示を考慮するならば、評価時点から引渡時までに評価会社の純資産価額に大きな影響を及ぼすような取引がある場合には、売買価格に反映させる必要があるでしょう。また、判定の時期は「契約締結時」ではなく「引渡時」ですので、契約から引渡しまでに長期のブランクが生じる場合にも同様の注意が必要です。

次に、評価会社の個々の財産の評価方法に関する判示をいくつか見てみましょう。

ゴルフ会員権は、相続税・贈与税の計算に際しては取引相場の70%で評価しますが、法人が保有するゴルフ会員権を時価評価する場合には、この30%減額は行わないとされました。継続企業を前提とした時価を求めるという趣旨に照らせば、妥当といえるでしょう。

未収入金などの金銭債権で、その債務者が債務超過であるものは、評価会社が債権を放棄する前であっても相当の減額評価をして売買価格を決定するのが通例です。しかし判示では、評価の恣意性排除が確実でない等の理由から、税法の貸倒基準を満たしていない金銭債権は減額評価できないとしています。債権の時価と税法の貸倒基準は本来無関係であり、これではかえって時価とかけ離れた評価額になってしまうように思えます。

その他に、貸家に取付けた器具備品の30%評価減が認められたり、土地について相続税と同様に路線価の使用が認められる場合が例示されたりと、興味深い判示が見られます。

今回の事例は評価会社の貸借対照表の各項目について具体的な評価方法を示していますので、その意味では参考になりますが、実務への配慮に乏しく、また各項目ごとで時価の考え方にバラつきがあり、今回の評価が本当に時価と呼べるのか、疑問が残るところです。

2005年11月16日(担当:小林 望)

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