2024年3月 8日

非上場株式の相続税評価で総則6項の適用が認められなかった地裁判決

 相続直後に相続税評価額(175百万円)の約13倍(2,248百万円)で非上場株式を第三者に売却したため、税務署から財産評価基本通達による評価は適当ではないとして、総則6項※1により鑑定評価額(1,720百万円)で否認された事案について、東京地方裁判所は令和6年1月18日付判決で、租税負担の公平に反する特段の事情が存在しないため、評価通達に定める方法によって評価すべきとの判断を示しました。

 相続開始直後に、納税資金確保のために不動産を相続税評価額よりも高額で売却する事例はよくあり、これに対して相続税評価額ではなく売却金額で申告すること求められることは通常はないわけですが、本事案では相続の13日前に買主企業との間で株式譲渡についての基本合意を締結しており、その基本合意で定めた金額で相続の翌月に株式売却に至っていることから、税務署は総則6項を適用したものと思われます。

 これに対して東京地方裁判所は、生前の基本合意は株式譲渡契約締結や売却金額を法的に拘束するものではなく、また被相続人においてその他の株主から株式を買い集めることが前提条件とされていることから、基本合意をことさら重視するのは相当ではないとしています。

 総則6項により納税者敗訴とした最高裁令和4年判決では、被相続人が生前に多額の借金をして不動産を購入するという積極的な行為が特段の事情とされたわけですが、本事案においても、例えば、被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っているにもかかわらず、相続税負担回避のために売却手続きを相続開始後まで遅らせるといった行為が必要であるとしています。

 今回の判決が示している通り、相続直後に相続税評価額よりも高額に譲渡しても、特段の事情がなければ相続税評価額で申告すべきものであり、生前の法的拘束力のない基本合意では特段の事情にならないとする判決内容は、実務家としては妥当なものと考えます。最高裁令和4年判決以降、むやみに総則6項を意識する風潮があり、これを否定する判決として歓迎しますが、国税当局は控訴しているようであり、控訴審判決が注目されます。

2024年3月8日 (担当:平野和俊)


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※1 財産評価基本通達総則6項(この通達の定めにより難い場合の評価)この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

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