2022年11月16日

暦年贈与は生前贈与加算期間を延長の上存続か~贈与税改革の方向性が明確に~

 令和4年11月8日、「相続税・贈与税に関する専門家会合」は、同日行われた政府税制調査会において、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築に向けた論点整理」を報告しました。この専門家会合は、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築などに向けた相続税・贈与税のあり方について、今後の同調査会総会における議論の素材を整理するために設置されたものです。

 贈与税改革は、いつどれだけの金額を誰に贈与するか、生前贈与の時期の選択によって、贈与税・相続税全体を通じた負担が異なってくることは中立的ではない、という問題意識の下、ここ数年議論されてきました。

 一部のマスコミ報道では、暦年贈与が廃止されたり年間110万円の基礎控除が使えなくなったりするなどの改正があるのではないかと騒がれていましたが、この論点整理によって、暦年贈与は、廃止もされず基礎控除もなくならない方向であることが明確になりました。

 論点整理は、現行の法定相続分課税方式の下では、完全に税負担を同じにする中立化は困難であり、諸外国と同じような課税を目指すのであれば、中期的に、遺産課税方式や遺産取得課税方式への移行に向けての見直しが必要となるとしています。よって、暦年贈与の廃止など大がかりな見直しは中期的な検討課題として先送りになります。

 その上で、現行の課税方式の下での当面の対応として、以下の見直しを行うことが必要としています。

① 相続時精算課税制度は、贈与・相続を通じて資産移転の時期の選択に中立的な税制であるため、
  一定の少額な贈与は持戻し不要にすることによって事務負担を軽減するなど、使い勝手を向上させる。

② 暦年贈与においては、現在、相続開始前3年内の贈与が相続財産に加算されるところ、
  その加算期間を延長し、資産移転の時期の選択により中立的な税制とする。

③ 教育資金一括贈与及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る特例は、格差の固定化につながる懸念が
  あり、適用件数が大きく減少しているため、廃止する方向で検討する。

 暦年贈与の3年内の生前贈与加算期間は、この見直しにより加算期間が延長される見込みです。なお、2018年の民法改正以後、遺留分計算時の特別受益の持ち戻し期間が10年になっています。これらを踏まえると、元気なうちに早めの贈与を前倒しで実行するなど、計画的な生前対策がより重要になってくると考えられます。

2022年11月16日 (担当:後 宏治)

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