含み損のある固定資産の譲渡によって非上場株式の相続税評価額を下げることは可能か?~最新の質疑応答事例から~
財産評価基本通達に基づく非上場株式の評価は、原則として、類似業種比準方式、純資産価額方式、または、これらのミックスで行われます。類似業種比準方式は、評価対象である非上場会社と、業種の類似する上場会社の「1株あたりの配当金額(B)」、「1株あたりの利益金額(C)」、「1株あたりの純資産価額(D)」を比較して非上場会社の株価を計算する方法です。比較の一要素である「1株あたりの利益金額(C)」については、法人税の課税所得を基礎として計算し※1、非経常的な利益金額は除かれます※2。
ところで、グループ法人税制の導入に伴い、100%支配関係にある内国法人間で譲渡損益調整資産の譲渡があった場合には、税務上、譲渡損益は繰り延べられ、譲渡先法人が再度譲渡した場合などに、繰り延べられた譲渡損益を戻し入れて、損益を認識することとされました。この取扱いと前記の非上場株式の評価とあわせて考えた場合、実務家から
1 譲渡を行った事業年度において、繰り延べられた譲渡益(譲渡損)は、類似業種
比準方式における利益金額の計算上、加算(減算)する必要はないのか? 2 譲渡益を戻し入れた事業年度において、当該譲渡益は非経常的な利益金額と して利益金額の計算から除くことができるか? |
との疑問が呈されていましたが、平成24年1月17日、質疑応答事例が公表され、
1 繰り延べられた譲渡益は、「1株当たりの利益金額」の計算上、法人税の課税所
得金額に加算する必要はありません。 2 譲渡損益調整勘定の戻入益は、原則として、「1株当たりの利益金額」の計算 上、非経常的な利益として法人税の課税所得金額から控除します。 |
との国税庁の見解が明らかとなりました。「譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地、有価証券(売買目的有価証券を除きます。)、金銭債権及び繰延資産のうち一定のものをいい、通常これらの資産の譲渡益は、非経常的な利益に該当すると考えられること」、「戻入益は非経常的な利益に該当すると考えられること」が理由として挙げられています。
この質疑応答は、納税者にとって有利なのでしょうか?不利なのでしょうか?経常利益が100の会社が、簿価100の固定資産を①100%支配関係にある内国法人に150で売却したケース、②支配関係にない法人に150で売却したケース、③100%支配関係にある内国法人に50で売却したケース、④支配関係にない法人に50で売却したケースのそれぞれにつき、譲渡を行った事業年度および譲渡先法人が再度譲渡した事業年度の「1株あたりの利益金額(C)」を試算すると以下となります※3。
譲渡を行った 事業年度 |
譲渡先法人が再度譲渡 した事業年度 |
|
---|---|---|
①100%支配関係にある内国 法人に150で売却したケース |
100 (=会計上の利益150 -譲渡損益調整50) |
100 (=会計上の利益100 +譲渡損益調整50 -非経常的利益50) |
②支配関係にない法人に150 で売却したケース |
100 (=会計上の利益150 -非経常的利益50) |
100 (=会計上の利益100) |
③100%支配関係にある内国 法人に50で売却したケース |
100 (=会計上の利益50 +譲渡損益調整50) |
50 (=会計上の利益100) -譲渡損益調整50) |
④支配関係にない法人に50 で売却したケース |
50 (=会計上の利益50) |
100 (=会計上の利益100) |
差が生じるのは、③と④のケースです。含み損資産を100%支配関係にある内国法人に売却する場合には、譲渡先法人が譲渡損益調整資産を再度譲渡した事業年度に初めて、税務上、含み損が認識され、「1株あたりの利益金額(C)」が減少し、非上場株式の評価額の減少が見込まれます。「1株あたりの利益金額(C)」の減少を目的に譲渡損益調整資産の譲渡を行う場合には、100%グループ外に売却する、再譲渡先は100%グループでも構わないので譲渡先法人にてただちに再度譲渡してもらう等の対策の検討が必要です。
※1 会計上の利益ではなく課税所得を基礎として計算するのは、「利益計算の恣意性を排除」するためと説明されています(「平成22年度版財産評価基本通達逐条解説」財団法人大蔵財務協会・P591)。
※2 非経常的な利益を除くのは、「評価会社の経常収益力を株価に反映されるため」と説明されています(同・P592)。
※3 譲渡損益の繰延べ・戻入れ以外の別表調整はないものとします。
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