2009年3月30日

非公開会社株式の有価証券管理信託において議決権指図権者を委託者
とした場合の会社法の取扱い

 非公開会社の事業承継の目的で、オーナー経営者から後継者に株式の生前贈与がおこなわれることがよくあります。この場合、オーナー経営者によっては、会社の支配権を手放さず、自社株式の財産部分のみを後継者に移転させたいと考える人もいます。

 この目的を達成するためには、拒否権付株式や無議決権株式等の種類株式を利用することが考えられますが、株主総会等の手続が面倒なため、実際にはあまり利用されていませんでした。

 しかし、信託を使えば簡単にこのニーズを満足させることが可能です。すなわち、後継者を受益者として株式を信託会社に信託しつつ、委託者であるオーナーを議決権の指図権者として指定することにより、経営権を維持しながら自社株式の財産部分のみを後継者に取得させることが可能になります。

図1

 UAPレポート「「日本における議決権信託と事業承継」で述べたとおり、中小企業庁の「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」で、「非公開会社においては、議決権について株主ごとの異なる取扱い(いわゆる属人的定め)を定めることが認められており(会社法第109条第2項)、剰余金配当請求権等の経済的権利と議決権を分離することも許容されているため、複数の受益者のうちの特定の者に議決権行使の指図権を集中させても、会社法上の問題は生じないと考えられる(中間整理8頁)。」としているため、委託者に議決権の指図権を留保しても、非公開会社においては会社法上特段の問題は生じません。

 事業承継を考える場合、信託を利用するしないにかかわらず、譲渡制限を設けることは必須と考えられます。そうすれば、非公開会社となり上記のような議決権指図権を分離させる柔軟な信託スキームが利用可能になりますので、生前贈与を考えている場合には注目です。

2009年3月30日(担当 後 宏治)

ページトップへ