2008年3月27日

事業承継税制「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度の創設」

平成20年1月11日に閣議決定されました平成20年度の税制改正要綱の備考に以下の記載がされております。
『事業承継税制の抜本見直しについては中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律(仮称)の制定を踏まえ、平成21年度税制改正において、事業の後継者を対象とした取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度を創設する。本制度は中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律(仮称)施行日以後の相続等に遡って適用する。』

平成21年度税制改正で納税猶予制度が制定され、その制度は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日(平成20年10月1日)以後の相続等にさかのぼって適用されます。現行の取引相場のない株式等に係る相続税の軽減措置は10%減額ですが、80%納税猶予が創設され、中小企業全般が適用対象となります。つまり、相続人(後継者)が相続等により取得した議決権株式等(会社の発行済議決権株式の総数等の3分の2に達するまでの部分)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。現行の減額制度は経過措置を講じた上で廃止されます。

具体例(現行の税率表で計算しています。)
具体例

《相続人(後継者)が相続等により取得した財産(納税猶予対象の株式等を含む)に係る相続税額》 

 3億円×40%-1,700万円=1億300万円-----A

《納税猶予の対象になる株式等のみを相続した場合の相続税額》

 2億円2,000万円×40%-1,700万円=7,100万円-----B

《その株式等の金額の20%に相当する金額の株式等を相続した場合の相続税額》

(2億円2,000万円×20%)×20%-200万円=680万円-----C

《納税猶予額B-C》

 7,100円-680万円=6,420万円-----D

《納税額A-D》

 1億300万円-6,420万円=3,880万円

適用要件等

Ⅰ、被相続人

① 会社の代表者であったこと 

② 被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であった場合。

Ⅱ、相続人(後継者)

① 会社の代表者であること。

② 相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となる場合。

③ 5年間の事業継続。具体的には代表者であること。

④ 雇用の8割以上を維持

⑤ 相続した対象株式の継続保有

⑥ ③・④・⑤は経済産業大臣のチェックを受けます。

Ⅲ、会社 

① 中小企業基本法の中小企業であること。
 (個人資産管理会社・投資目的会社は除く)

Ⅳ、その他

①相続人(後継者)の死亡の時まで納税猶予の対象となった株式等を保有し続けた場合など一定の場合(注)に猶予税額の納付を免除

②相続人(後継者)が相続税の法定申告期限から5年の間に上記Ⅱ、③・④・⑤いずれかに該当しなくなること等で経済産業大臣の認定が取り消された場合には猶予税額の全額を納付しなければなりません。

③ 上記②の5年経過後に納税猶予の対象となった株式等を譲渡した場合には、その時点で納税猶予の対象となった株式の総数等に対する譲渡株式の総数等の割合に応じた猶予税額を納付しなければなりません。

④ 上記②・③の場合には相続税の法定申告期限からの利子税も併せて納付することになります。

⑤ この納税猶予制度を受けるには原則として納税猶予の対象となった株式等のすべてを担保に供する必要があります。

(注)一定の場合には、次世代の後継者に相続時精算課税制度を利用し非上場株式を贈与した場合や倒産等で非上場株式が無価値化した場合、組織再編を行う場合等が考えられますが今後の動向に注視したいところです。

納税猶予制度が創設されることにより今までよりも税制面での中小企業のスムーズな事業の承継が期待されます。ただし自社株対策は必要です。なぜなら仮に、発行済株式の全部を被相続人が持っており、その全部を相続人(後継者)が取得しても、株式に係る相続税の約半分(発行済株式総数の3分の2の8割)が猶予となり、残りの約半分は納税となるからです。また相続人(後継者)以外の者が取得した株式については猶予制度がありません。

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律には民法の特例(参照2008年1月29日付UAPレポート 事業承継を計画する中小企業の基本法になるか~「中小企業の事業の継続の円滑化に関する法律(仮称)」)も制定されますので、納税猶予制度との併用を検討し、事業承継対策を考える必要があるでしょう。

現状では制度の詳細が未確定ですが、納税猶予制度は使い勝手がいい制度になると思われます。なぜなら自民党の中小企業支援の政策に基づくものであり、民主党も同様の大綱を作成しており、反対が見込まれないからです。

実際には平成21年度の税制改正となりますので、今後定められる法令に注視する必要があります。

2008年3月27日(担当:矢萩 貴之)

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