2007年12月20日

親族への土地の譲渡が相続税評価額で可能に?~平成19年8月23日判決より~

1.親族等へ土地の譲渡は「時価」が原則

親族等へ土地を譲渡する際には、相続税評価額ではなく時価によることとされています。これは、所謂負担付贈与通達により、「土地(中略)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。」との定めがあり、時価を下回る価額で譲渡した場合において「実質的に贈与を受けたと認められる金額がある」とされたときは、当該価額は「著しく低い価額」(相続税法7,9)に当たるとされ通常の取引価額(時価)との差額を贈与により取得したとみなされるためです。

2.判決の内容と実務への影響

この負担付贈与通達及び「著しく低い価額」に当たるかどうかの判定について、平成19年8月23日に東京地方裁判所において、注目すべき判決が下りました。要約すると、

  • 「著しく低い価額」とは経済合理性のないことが明らかな価額であり、取引の実情を勘案し、社会通念に従い判断すべきものである
  • 相続税評価額が時価の80%程度の水準であり、譲渡価額が相続税評価額同程度かそれ以上であれば、「著しく低い価額」での譲渡とは言えない
  • 「著しく低い価額」での譲渡でなければ、時価との差額について贈与税課税はされない
  • 「著しく低い価額」に当たるかどうかの判定において、実質的に贈与を受けたか否かという基準が妥当なものとは解されない

といった内容で、親族への相続税評価額での土地の譲渡に一定の道を開いたものといえます。

ところで、時価のどの程度の割合であれば相続税法上の「著しく低い価額」に当たるのかについては、法令・通達上、明確な定めはなく、過去の判例・裁決においても、納税者が敗れた(「著しく低い価額」とされ課税された)事例として、以下のものがあります。

  • 親族間で時価の60%弱で譲渡(平成13年4月27日裁決)
  • 親族間で家庭裁判所の調停で示された解決金として時価の30%強で譲渡(平成12年6月29日裁決)
  • 第三者間で時価の30%強で譲渡(さいたま地裁平成17年1月12日)

また、納税者が勝った(税務署の課税処分が取り消された)ものには

  • 親族間で時価の79.3%で譲渡(平成15年6月19日裁決)

といった事例があるものの、「著しく低い価額」に当たるかどうかはその他の事情を総合的に考慮して個別に判断するとのスタンスをとっています。

時価との乖離幅だけで「著しく低い価額」を判断しないのは、当判決においても同様で、

  • 譲渡者が土地を取得してから親族に譲渡するまでに2年以上の期間が経過していること
  • 譲り受けた土地は全部ではなく土地の持分であり換価しにくく、また、現に換価していないこと
  • 租税回避だけが目的であるとまではいえないこと

といった、前提条件をつけています。
この判決は控訴されることなく確定しましたが、課税庁として当通達を改正する予定はないようです。従って、今後も、明らかな租税回避と思われる事案や、当判決の前提条件を満たさない事例等については負担付贈与通達を根拠として課税処分を行うものと思われます。

従いまして、

  • 親族間での譲渡の直前に第三者から購入している又は譲渡の直後に第三者に売却している等により譲渡する土地の時価が明らかなケース
  • 譲渡する土地の時価は明らかではないものの、路線価が周辺での実際の取引相場の80%程度に満たないことが明らかなケース
  • 租税回避のみを目的としていることが明らか

といった親族間の土地取引を当判決のみに依拠して相続税評価額で譲渡する場合には依然として課税リスクを伴うため、判決の趣旨・内容の理解と個別の状況を十分に検討した上で、妥当な譲渡価額を設定する必要があろうかと思います。

2007年12月20日(担当:吉岡 純男)

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