2007年7月31日

相続税における信託課税の改正~平成19年度税制改正より

平成18年12月に成立し、平成19年9月にも施行予定の改正信託法では新しい類型の信託制度が導入されており、相続においても信託の利用機会の増加が期待されます。そこで気になるのは新しい信託制度に対する課税関係です。

これまで、信託に関する課税は、名目上の信託財産の所有者である受託者ではなく、実質上の所有者である受益者にその所得や利益が帰属するものとして課税をする受益者課税が原則とされてきました。

ところが、新たに導入される信託制度では、単純に受益者に課税関係を帰属させるというやり方だけでは十分に課税がなされない恐れのある信託の設定が可能になりました。

そこで、平成19年度の税制改正では、受益者課税の原則は維持しながらも、受益者課税だけでは課税しきれない信託制度については、所得税、法人税、相続税などの各種の税目を横断的に、かつ、一体的なものとして整備することにより租税回避を防止する措置をとっています。

新たな類型の信託制度で今後相続において利用されることが想定されるものに、遺言により設定された目的信託 があります。この信託では、自らが寵愛する特定の動物を飼育するため信託や、自らの住居を自らの死後も記念館のように管理してもらうための信託などの設定ができます。この信託は受益者の定めがなく、かつ、信託に関する権利が相続財産に含まれないことから、受益者又は信託の権利を相続する委託者の相続人に対して課税する改正前の相続税法では課税できないことになります。

このような受益者の定めのない信託に対しては、信託設定時には委託者にみなし譲渡益課税、受託者に信託財産相当額の受贈益に対する法人税課税が、信託期間中には信託財産に係る所得について法人税課税が、信託終了時には帰属権利者への残余財産の移転に係る受贈益に対して所得税又は法人税を課税することになりました。

また、家業を継いだことを条件に子供を受益者とする信託や、まだ生まれていない孫を受益者とするような、いわゆる受益者が不特定又は不存在の信託についても、それが遺言により信託された場合には、改正後の税制では、原則として、信託設定時に受託者に対し法人課税(受贈益)し、その後の運用益についても受託者に法人税等を課税します。そして、その後受益者が現れたときに、その受益者には受贈益を課税せず、受託者の課税関係を引き継ぐことになりました。

ところが、そうすると、法人課税(おおよそ40%の税率)をすませたのち、親族等を受益者とすることで、相続税(最高50%の税率)を回避することが可能になってしまいます(差額の10%分だけ有利になります。)。

そこで、その後に受益者となる者が委託者の親族等であるとき (下記の場合を除く。)は、上記の差額に相当する税額の租税回避を防止するため、信託の効力発生時に受託者に対して贈与又は相続課税(法人税等相当額を控除)することとしています。

さらに受益者となる者が信託設定時に生まれていない親族等の場合には 、被相続人からその孫への直接相続することよる相続税回避となることから、上記に加え、その受益者となる時において、その信託に関する権利を個人から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。

もう一つ、改正相続税法が対応している新しい信託制度に、受益者連続型信託 があります。これは、子供のいない被相続人が配偶者から甥へ財産を承継させたり、再婚した被相続人が後妻から先妻の子供へ財産を承継させたりするといったニーズに対応する信託です。受益者連続型信託では、信託法上受益権の移転は最初の移転以降の移転についてもすべて委託者からの移転とされることから、改正前の相続税法では、二番目以降の受益権の移転が最初の移転に係る相続税課税の除斥期間後である場合には課税できませんでした。

そこで改正後の相続税法では、二番目以降の受益者が直前の受益者から遺贈又は贈与により受益権を取得したものみなして課税することにより通常の相続との課税の公平を図っています。

このように、新しい信託制度を用いた相続が単純に税制上有利になるという訳にはいかないようです。
とはいえ、死亡後の財産の行く末を自分の意思で設定できる新しい信託制度は、一考の価値はありそうです。

2007年7月31日(担当:中村 敬)

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