2007年6月25日

定期同額給与「どこまで認められるのか、臨時改定事由」

役員給与については、法人税法上の取扱いが、平成18年改正において大幅に見直されました。そして、国税庁の平成18年12月付け質疑応答事例(以下、「Q&A」という。)が公開された後、これを条文に落とし込むかたちで、平成19年改正が行われました。

この平成19年改正において注目したいのが、定期同額給与の中に規定される臨時改定事由です。
平成19年改正においては、事業年度の中途において役員給与の額が改定されたとしても「内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」(これらを臨時改定事由といいます。)によりされた給与改定は定期同額給与として取扱い、その全額が損金算入される、と規定されています(法令69①一ロ)。

すなわち、①職制上の地位の変更、②職務内容の重大な変更、③その他類似するやむを得ない事情、の3つが臨時改定事由とされており、この臨時改定事由があれば、役員給与の改定が全額損金算入されることになります。

ここで問題となるのが、①職制上の地位の変更、及び②職務内容の重大な変更による給与改定は、「やむを得ない事情」を必要としなくとも損金算入されるのか、それとも「やむを得ない事情」によりなされた職制上の地位等の変更による給与改定のみが損金算入されるのか、ということです。
条文を素直に読むと、①職制上の地位の変更、及び②職務内容の重大な変更は、これらが「やむを得ない事情」によって変更されたものであろうとなかろうと、臨時改定事由に該当します。租税法律主義の下では条文に素直に従うべきですが、文理どおりに解釈すると、例えば、節税目的の利益調整のため恣意的に平取締役を常務に昇格させた場合でも、職制上の地位の変更があるため臨時改定事由に該当し、損金算入が認められるという不都合な結果が生じてしまいます。

この点、Q&A(問2)では、役員の急逝による「やむを得ない」分掌変更による増額改定の場合には、その全額が定期同額給与に該当すると説明されていました。つまり、「やむを得ない事情」を原因としてその結果分掌変更がなされた場合には例外的に損金算入として取扱うこととされており、実務家はこの事例を限定的に解し、「やむを得ない事情」に基づかない分掌変更の場合には、原則どおり、損金不算入であると考える向きが多勢でした。

このように、Q&Aと平成19年改正政令との間には、「臨時改定事由」の捉え方に違いがあるため、以下のような事例について実務的な判断を行うには慎重に検討する必要があります。

例えば、Q&A(問1)では、業績好調による増額改定については、増額部分についてのみ定期同額給与に該当しないこととされた事例が紹介されていますが、政令の文理解釈によると、昇格させた上で増額改定を行えばその全額が定期同額給与として扱われることとなり、実務上、制約なく利益調整できることとなります。

また、先に説明したQ&A(問2)のような「やむを得ない事情」を必要としない分掌変更についても、政令どおりだと定期同額給与に該当するかのように読むことができます。
このほか、Q&Aに記載はありませんが、決算月前数ヶ月だけ恣意的に役員給与を増額改定するケースは、そもそも定期同額給与に該当しない(その全額を損金不算入とする)との課税庁の見解が示されているようですが、これすらも昇格させた上で増額改定を行うことにより損金算入が可能であるという結果となってしまいます。

ですから、臨時改定事由に該当する職制上の地位等の変更には、その変更理由として「やむを得ない事情」が必要であると、保守的に縮小解釈をすべきであると考えます。利益調整防止という役員給与の制度趣旨を考えれば、政令の文言どおりの判断をすることは、臨時改定事由の範囲をあまりに広げすぎることとなり、その趣旨が失われてしまうからです。今後、このようなQ&Aと平成19年改正政令との間の温度差が解消されるような、通達等の整備が待たれるところです。

また、役員給与の額の改定につきやむを得ない事情があったとしても、そのことと役員給与の増加額の程度とは別の問題です。改定後の役員給与の額が不相当に高額であればその高額な部分の金額(法法34①二)は否認される可能性もありますのでご注意下さい。

2007年6月25日(担当:川村 崇)

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