2005年8月 3日

同族個人間の不動産売買価額はどのように決めたら問題にならないか?

~相続税法第7条(資産の低額譲受け)「著しく低い価額」の判定で詳細な理由を列挙した裁決事例~

親から子へ、祖父母から孫へと不動産を移転する場合には、無償またはできるだけ低い価額で引き継がせたいと考える方が多いのではないでしょうか?

しかし、無償であれば子や孫に贈与税が課税されますし、有償で譲渡する場合でも、その売買価額が時価よりも「著しく低い」ときは、時価と売買価額の差額分の贈与があったものとみなされ、やはり子や孫に贈与税が課税されてしまいます(相続税法第7条)。

後者に関しては、いったい売買価額が時価よりもどれだけ安ければ「著しく低い価額」に該当するのか?という点について、税法では何も規定されていないため、「著しく低い価額」の認定をめぐって課税庁と納税者の間で数々の争いが起こっています。

また、過去の判例や裁決例の大半は、「著しく低い価額」の判定を行う場合には、「財産の種類・譲受けの事情・譲受けの対価・その財産の市場価格等を総合勘案して社会通念に照らして判断すべきである…」としているのですが、その判断の具体的な内容が示されていないため、時価よりも低額で財産の譲渡を行う場合の価額決定は、実務的にも頭の悩ませどころでした。

そのような事例のなかで、詳細な理由をあげて「著しく低い価額」の判定を行っているものがあります(国税不服審判所・平成15年6月19日裁決)。

これは、祖母がその所有する土地・家屋を孫に譲渡し、孫はこれを時価による売買であると考えたため贈与税の申告を行わなかったところ、課税庁はその売買価額が時価に比べて「著しく低い」と認定し、孫に対して贈与税の決定処分を行ったというものです。孫は不服申立てを行い、今回の譲渡に相続税法第7条が適用されるか否かが争われることとなりました。そして国税不服審判所は、おおむね以下の理由から課税庁の処分をすべて取り消しました。

1.祖母は高齢のため本件不動産の管理が煩わしくなり、また、自身の借金返済のために本件不動産を譲渡した。
2.本件不動産の売買価額は、不動産業者から聞いた相場などを参考に決定した。
3.本件不動産の売買価額が、課税庁の算定した時価に占める割合は79.3%である。
4.祖母は本件不動産を相続により取得し、その後長期間保有してから譲渡した。
5.本件不動産の売買価額は、相続税評価額を上回っている。
これだけ詳細な理由をあげて判断を行っている事例は珍しく、また、比率や価額が明記されている(3、5)点も非常に参考になると思います。しかし、あくまで「著しく低い価額」の判定は、様々な要因を総合勘案して行うこととなりますので、単に「売買価額が時価の80%程度で、かつ相続税評価額を超えていれば著しく低い価額に該当しない」ということではありません。この点は注意が必要です。

例えば今回の事例では、早期に売却しなければならないやむを得ない事情があり(1)、価額の決定経緯に合理性がある(2)場合には課税されない、という判断が下されています。しかし、これと同じ価額による譲受けであっても、譲受人に対する利益供与のみが目的であることが明らかな場合などには課税される余地がある、という読み方もできます。

今回の事例では納税者の主張が全面的に認められ、また「社会通念に照らして総合勘案」の内容も以前よりだいぶクリアになってきました。しかし「総合勘案」の要因のうち、「譲受けの事情」などは金額に換算するのが非常に困難であるという事実は変わりありませんので、今後も不動産を時価より安く譲渡する場合には、個々の事情に応じて慎重に売買価額を決定する必要がありそうです。

2005年8月3日(担当:小林 望)

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