2025年8月25日

オーナーの同族会社に対する多額の無利息貸付は認められなくなるのか?

 オーナーが同族会社に対して約3,450億円という巨額の無利息貸付をしたところ、行為計算否認規定(所法157)が適用されて、銀行の貸出約定平均金利による利息相当分の雑所得が認定された、いわゆる平和事件の最高裁判決が出たのは平成16年でした。それから約20年間、個人の同族会社に対する無利息貸付について、同様の判決・裁決が下されたとは寡聞にして知らず、数千億円という規模感でなければ、現実の課税リスクは高くないと考えられていたのではないでしょうか。ところが令和6年になって、無利息(又は低利息)貸付に対して平和事件と同様に行為計算否認規定で雑所得を認定する裁決が2件出ています。

 1件目は令和6年5月15日付裁決で、オーナー一族が同族会社に対して約80億円の貸付を行い、利息は銀行定期預金程度(約0.002~0.008%)としたところ、この貸付利率は著しく低いとして銀行の貸出約定平均金利(約0.8%)により雑所得が認定されたものです。実はこの事案は、もともと社債を活用した節税スキーム※1を実行していた同族会社が、同族会社から受ける社債利子を総合課税の対象とする平成25年度税制改正を受けて、高利率の社債を低利率の貸付に切り替えていたという特殊な事案ですから、経済合理性を欠く面があったことは否定できません。

 これに対して2件目は令和6年6月10日付裁決で、オーナー一族が同族会社に対して多額(金額は不開示)の無利息貸付をしたところ、銀行の貸出約定平均金利(利率は不開示)により雑所得が認定されたものです。この裁決本文からは1件目のような特殊背景は見当たらず、典型的な富裕層オーナーによる資産管理会社への無利息貸付ではないかと推測されます。そもそも、個人から法人への無利息貸付けには所法36条にいう「収入すべき金額」がないため、原則として受取利息相当額は所得として認識されないわけですが、オーナーが経営責任を果たすためなどの特段の事情がなければ行為計算否認規定の適用対象になり得るというというのが審判所の判断となります。

 しかし現実問題として、経営責任を果たすなどの特段の事業がない状況において、オーナーが同族会社に対して無利息貸付を行っている事例は多数存在していると推測されます。今後の税務調査においては、積極的に無利息貸付に係る雑所得認定がされることになるのでしょうか。また、仮に利息を認定する場合でも、銀行の貸出約定平均金利ではなく、個人が行う預金金利を採用した方が妥当であるという意見も多く※2、筆者も同意するところです。

 そして、この審判所の課税ロジックに沿うのであれば、オーナーが同族会社に不動産や無体財産権(特許権など)を無償で利用させる場合においても、特段の事情がなければ賃料等相当額を課税し得るということになりますから、実務への影響は大きいです。

2025年8月25日 (担当:平野和俊)

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※1 総合課税される役員給与ではなく、20%源泉分離課税とされる社債利子を受け取るスキーム。
※2 品川芳宣『重要租税判決の実務研究』(一般財団法人大蔵財務協会、2023年)317頁

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