2025年7月29日

土地の使用貸借契約が課税上無視される判断基準

 土地の使用貸借を利用した節税策の是否認は、形式的な契約内容ではなく、課税当局が認定する私法上の真実の法律関係に基づき判断されます。具体的に、親族間で土地を無償で貸し借りし、借主がその土地で駐車場経営を行っているケースでは、駐車場収入を実質的に支配・管理している者に所得が帰属するとみなされます 。

 このように、有効な契約があるにもかかわらず、それが無視され通常とは異なる課税が生ずることがあります※1

 いかなる場合に契約が無視されるのか、その際の判断枠組みが実務上の問題です。
 
 課税当局は、土地を無償で借りて駐車場経営を行っている場合の所得の帰属を、以下の枠組みで判断します※2

① 駐車場の所得が事業所得か資産からの不動産所得かを区分する。

② 不動産所得である場合、資産の真実の権利者が誰かを判断する。

③ 真実の権利者が不明の場合は、その資産の名義人を所得の帰属者とする。

 まず、駐車場収入が事業からの所得(=事業所得または雑所得)か資産(=土地)からの所得(=不動産所得)かを判断します。例えば、有料駐車場で管理者を置いて車両の出入を管理したり、不特定多数の客に時間貸しをしたりするなど、「自己の責任において他人の物を保管する」性格が強い場合は、物品預りとみて事業所得または雑所得とされます。一方、単に土地を貸し付けているとみられるものは不動産所得となります(所基通27-2)。

 次に、資産からの所得は、実質所得者課税の原則(所法12)に基づき、私法上の真実の権利者に帰属するとされます(法律的帰属説)。通常、資産の所有者が真実の権利者として所得の帰属者となります(所基通12-1)。

 契約が無視されるのは、真実の権利者を判断するこの段階です。ここでは、貸付の形態に応じて、以下の基準で判断されます。

ア 青空駐車場やアスファルト敷など簡単な構築物を設置している駐車場の場合
 この場合、使用貸借契約により駐車場からの収入を借主が得ていても、その収入の管理・支配を実質的に貸主が行っていると認定されることが通常です。その結果、駐車場収入は貸主に帰属し、借主はその収入を貸主から贈与されたものとみなされます※3

イ 建物、設備等を設置している場合
 この場合、単なる土地の使用貸借にとどまらず、サービスや管理など実態を伴うときには、借主の事業所得、雑所得または不動産所得と認定されます。
 例えば、夫から土地を使用貸借した妻が立体駐車場(外気分断性のない工作物)を建築し、その賃貸料の帰属が争われた事例では、駐車場の収入は、土地からではなく立体駐車場設備から生じたものと認定され、その所得は借主である妻に帰属すると判断されました(国税不服審判所・令和6年4月5日裁決)※4

 租税法は、原則として、有効な契約を前提事実として適用されますが、例外的に契約を無視し、真実の法律関係を探求するケースがあります。土地の使用貸借を利用した所得分散目的の節税対策がその典型です。ここでは、借主が投じた設備資金の多寡や、提供した管理・労力の規模といった実態を基礎として所得の帰属が判断されます。
 
 裏を返せば、使用貸借契約の前後で名義だけが変更され、設備や支配・管理の実態が変わっていない場合には、真実の法律関係は従前と変わらないと認定されます。結果的に、土地からの収入を分散することはできなくなるため、事前の慎重な検討が不可欠です。

2025年7月29日 (担当:後 宏治)

1

※1 具体的な事例と判例実務は、UAPレポート「土地の使用貸借を利用した節税策はなぜ否認されるのか?を参照。

※2 西野克一編『回答事例による 所得税質疑応答集』66~67頁(大蔵財務協会、2010)

※3 親が使用貸借により駐車場収入を子に帰属させたことが「みなし贈与」と判断された裁決(国税不服審判所・令和5年6月13日裁決)参照。

※4 詳細は、小北大樹『実務家が知っておくべき「最新未公表裁決」第65回』税務通信3823号(2024年10月21日)参照。

ページトップへ