負担付遺贈と負担付特定財産承継遺言では譲渡所得の課税関係は異なるのか?
負担付遺贈とは、受遺者に一定の法律上の義務を負担させる遺贈をいいます。相続税の課税上、負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における財産の価額から負担額を控除した価額によるものとされ、一方、その負担額が第三者の利益に帰すときは、その第三者が負担額に相当する金額を遺贈により取得したこととなります(相基通9-11、11の2-7)。
ここで、特定の相続人に特定の財産を承継させるためには、遺贈ではなく特定財産承継遺言(相続をさせるための遺言)によることも可能です。そして、負担付の特定財産承継遺言には、民法1002条(負担付遺贈)の類推適用を認めている判例もあり(大阪地裁令和3年9月29日)、相続税の課税上も負担付遺贈に係る前記通達が適用されるものと考えます。
次に譲渡所得の課税関係を検討すると、所得税法第33条に規定する譲渡は有償譲渡に限られるものではなく、贈与その他の無償の権利移転行為を含むことから(東京高裁昭和62年9月9日判決)、遺贈者に経済的利益を生じさせる個人に対する負担付遺贈については譲渡所得の課税関係が発生することとなります。具体的には、個人に対する借入金付不動産の遺贈では、譲渡所得の課税関係が発生することとなります※1。とはいうものの、負担付遺贈において、現実に譲渡所得課税が行われているかは良く分かりません。
一方、負担付特定財産承継遺言による場合はあくまでも相続による移転であり、前記判決にいう権利移転行為に該当しないと解釈すれば、譲渡所得の課税関係は発生しないこととなります。
民法上の観点から、法定相続人に対する遺産の承継方法として、遺贈ではなく特定財産承継遺言を採用する場合が多いかと思いますが、負担付で遺産を承継する場合には、譲渡所得税の観点からも、遺贈ではなく特定財産承継遺言を採用したほうが良さそうです。
※1 この場合でも、譲渡損が発生する低額譲渡(借入金額が不動産時価の2分の1未満)に該当する場合には、譲渡はなかったものとみなされます(所法59②)。
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