2015年12月29日

遺留分減殺請求を利用した相続税の節税は可能か?

 法定相続人(兄弟姉妹を除きます。)のために民法上必ず留保されなければならない遺産の一定割合を遺留分といいます。遺留分により各法定相続人は最低限度の遺産を確保することができますが、この遺留分が侵害されたときには、遺留分を保全するため、贈与や遺贈の履行を拒絶し、さらに、既に給付された財産の返還を請求することができます(=遺留分の減殺請求)。

 遺留分の減殺請求がなされときの相続税における取扱いは次のようになっています。

 まず、相続税の申告時おいて、減殺請求に基づく財産の給付額が確定している場合には、その結果を取り込んだ相続税の申告書を提出します。

 次に、当事者間において減殺請求について争いがあり、相続税の申告時に給付額が確定していない場合には、その減殺請求がなかったものとして課税価格を計算し、いったん相続税の申告書を提出します(相基通11の2-4)。

 そして、その後、その争いが確定した場合、遺留分の減殺請求を受けた者は、その時から4か月以内に、相続税についての更正の請求を行い、納付済みの相続税の還付を受けることができます(相法32①三)。他方、遺留分の減殺請求をした者は、期限後申告(相法30①)または修正申告(相法31①)を行い、取得した遺留分に対応する相続税を納付することになります。

 なお、更正の請求、期限後申告および修正申告は、いずれも「することができる」もので、義務ではありません。もっとも、遺留分の減殺請求を受けた者が減額更正を請求したときに、減殺請求者が期限後申告・修正申告をしていなければ、税務署長は増額の更正または決定をします(相法35三)から、遺留分に対応する財産を取得した者には相続税の納付義務が生じます。しかし、最初の更正の請求がなされなければ、財産を取得していても、増額更正や決定を受けることもありませんし、期限後申告や修正申告をする必要もありません。

 このため、実務においては、当事者間の合意により、更正の請求や期限後申告等による処理をせず、互いに相続税相当額の精算を行ったり、各自の相続税の負担を変更しないままにしたりすることも認められています。

 ところで、近年、この仕組みを利用した相続税の節税策が話題になっています。その策とは、遺言によって配偶者が遺産のすべてを相続し、その後、子供が遺留分減殺請求によって遺留分対応財産を取得するというものです。

 配偶者は、相続税の配偶者の税額軽減特例を適用して、相続税額の負担を大きく(遺産の額によってはゼロにまで)減らすことができます。そして、その配偶者が遺留分の減殺請求を受けて子供に財産を取得させた後、更正の請求をしないことによって、子供の相続税の負担を大幅に減少させることができるのです。

 確かに現行の相続税法では、このような節税策は表面上合法的なものと考えられます。

 しかし、このような結果は不合理だとして、現行法の解釈により、国税通則法25条を適用して、子供に対して税務署長が増額決定できるとする見解や、そもそもこうした仕組みは親子間の通謀虚偽表示(仮装行為)であって、特段の規定がなくとも、その実質にしたがって課税できるという見解もあります。

 争われた事例がなく、課税庁の見解も明確でない現時点でこの対策を実行するには、否認されるリスクを踏まえ、相当慎重な対応が望まれます。

2015年12月29日 (担当:後 宏治)

 

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