2013年12月26日

相続税の取得費加算特例の縮小と影響

 自分が所有している土地等を他人に譲渡したときにかかる長期譲渡の場合の所得税は、売却額から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に20%(国税15%+地方税5%)を乗じて計算されます※1

 親から相続した土地等についても譲渡税は課税されますが、これには特例が用意されていて、土地等の売却が相続税の申告期限から3年以内のものであるなら、売り主が相続した「すべて」の土地等にかかった相続税額を、譲渡所得を計算するときに差し引く取得費に加算できることとされています(取得費加算特例)。その結果、自分が支払った土地等にかかる相続税の金額までの土地等の売却には、現行制度では譲渡税がかかりません。

 先日明らかになった平成26年の税制改正によると、この特例適用が次のように制限されることになりました。すなわち、譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する金額が、その人が相続した「すべて」の土地等に対応する相続税相当額から、「その土地等に対応する」相続税額とされます。

 この改正は、譲渡していない土地等も取得費加算の対象になることを問題視した会計検査院の制度見直し意見によるものです。具体的に見てみましょう。

 いま、親1人子1人の甲さんが、A土地、B土地、C土地の3筆(いずれも時価1億円、相続税評価額8千万円)と預金3,600万円を相続により取得した場合、平成27年1月1日以降に予想される相続税額は、8,100万円です。

 相続開始後3年10ヶ月以内にA土地を売却した場合、この特例適用がなければ、甲さんの譲渡税は、土地Aの売却額(時価)1億円から、概算取得費5%の500万円と譲渡費用である仲介手数料3%の300万円を差し引いた9,200万円に、20%の税率を乗じて計算され、その額は、1,840万円です。

 これに改正前の特例を適用すれば、「相続税額8,100万円×すべての土地の評価額2億4,000万円÷相続した財産の課税価額2億7,600万円」で計算される7,043万円を取得費に加算することができます。つまり、甲さんは譲渡していないB土地とC土地にかかる相続税も取得費に加算することができ、その結果、甲さんの譲渡所得2,157万円(=1億円-(7,043万円+500万円)-300万円)になり、譲渡税は431万円にまで軽減されます。

 改正後の取得費加算額は、「相続税額8,100万円×A土地の評価額8,000万円÷相続した財産の課税価額2億7,600万円」で計算された2,347万円になります。譲渡税は1,370万円になり、939万円の増額になります。

 この改正は、平成27年1月1日以後に開始する相続・遺贈により取得した資産を譲渡する場合について適用され、納税資金対策に大きな影響を及ぼすと考えられます。取得費加算の特例は、相続税の納税資金を確保するなどのために、相続した土地等を売却せざるを得ない人の税負担を軽減調整するために作られた制度だからです。

 改正後は、以前より多くの土地等を売却しないと、納税資金が十分に確保できないケースが多くなります。また、おそらく、延納・物納が再度注目を集めることになるでしょう。

 いずれにせよ、遺産に土地の占める割合の大きな人にとって、納税資金をにらんだ生前のタックスプランニングの重要性が増加していくことは確実なようです。

2013年12月26日 (担当:後 宏治)

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※1 平成25年から平成49年までの各年分の個人の所得税については、復興特別所得税が2.1%付加されますので、国税が15.315%になり、全体の税率が20.315% になります。本稿では、説明の簡略化のため、復興特別所得税を無視して数値例を説明しています。 

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