2011年8月 5日

税法における「配当所得」の守備範囲には注意を

 平成23年5月31日の東京地裁判決(平成21年(行ウ)第630号)では、ペーパーカンパニーにおける不動産売却収入を株主の口座に送金した取引について、株主に対する配当所得と判示しています。この判決では、過去の最高裁判決を引きながら、①法人が、②その利益から、③その株主等に対し、④株主等たる地位に基づいて供与した利益は、その名目にかかわらずこれを利益の配当たる配当所得に含まれると解することができるとし、商法(会社法)の見地からは不適法なものであっても所得税法の配当に該当すると述べられています。つまり、株主総会の決議を経ていない配当や、株主平等の原則に反する一部株主への経済的な利益供与等であっても、上記の要件を満たすものであれば、所得税法上は配当所得に該当する可能性があります。

 ところで、グループ法人税制の導入により、100%グループ内においてはグループ会社から受け取った配当金および寄附金は、原則として全額が法人税の課税対象外となりました。したがって、子会社から親会社に資産を移転する場合は、配当でも寄附でも無税で行えます。ただし、配当により金銭を移転する場合には子会社で20%の源泉徴収が必要となり、この源泉徴収された税金は親会社の決算において取り戻せるものの、資金効率の面から考えると、子会社から親会社への金銭の移転は配当よりも、源泉徴収の必要がない寄附によって行いたいところです。この時注意したいのが、上述した判決の内容です。子会社から親会社へ金銭を寄附するという行為は、子会社の議決権を親会社がすべて握っているという関係を考えると、親会社が100%の議決権を持つ株主としての地位に基づいて子会社に利益を供与させたと捉えるのが自然です。そうなると、寄附として子会社から親会社に金銭を移転した場合であっても、それは所得税法の配当所得に該当する配当ということになり、子会社では源泉徴収を必要とされ、源泉徴収漏れがあれば、不納付加算税、延滞税のペナルティが待っていますので注意が必要です。

 なお、金銭ではなく金銭以外の資産で配当を行った場合、グループ法人税制の導入に伴って設けられた適格現物分配の制度によって、100%グループ内であれば、簿価で資産を移転することができるため法人税がかからず、源泉徴収も要りません。したがって、どうしても源泉徴収をさけて子会社から親会社に資金を移転したい場合には、有価証券、金銭債権等の流動性の高い金銭以外の資産で配当をするというのも一考です。

2011年8月5日 (担当:吉田暁弘)

 

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