2010年11月 4日

保証金の持ち回りをした場合の税務会計上の取扱い

 賃貸不動産の売買があった場合に、買主は不動産の取得と同時に売主が賃借人に対して有している敷金や保証金(以下、「保証金等」といいます。) の返還債務を引き継ぐことになります。そのため売買時に保証金等相当額と売買代金を相殺する方法や売買代金とは別に保証金等相当額の決済をする方法により保証金等の精算が行なわれます。例えば、売買代金1億円、預かり保証金500万円の不動産売買では、相殺後の9500万円で決済したり、1億円の決済とは別に500万円の決済をしたりします。この場合、売買代金の決済と保証金等の精算は別取引ですので、税務会計上、売主の不動産譲渡対価は1億円となり、買主の不動産取得価額も1億円となります。

 ところで、関西圏で賃貸不動産の売買があった場合には、保証金等の精算を行なわず買主が保証金等返還債務のみを承継するという取引慣行があります。上記の例でいうと、売買代金1億円の決済だけをし、保証金等の精算をしないというものです。この方法によると、買主は取得後に賃借人が退去した際には自らの負担で保証金等の返還を行なう必要が生じます。このような取引慣行を「保証金の持ち回り(関西方式)」といいます。売買契約書には「買主は、売主が各賃借人から預かり保管中の保証金等の返還債務を引き継ぎ、各賃借人との賃貸借契約の定めに従い、自己の責任で将来これを各賃借人に返済する責に任ずる」といった内容で記載されます。

 買主がこの取引慣行に初めて遭遇した場合、保証金等相当額についての税務会計処理について悩まれる方が多いようです。すなわち、不動産の取得価額は売買代金の1億円となるのか、保証金等返還債務を含む1億500万円となるのかについて疑問をもたれるようです。

 この取引における保証金等相当額の取扱いについては、次のような判例があり、税務会計処理はその判示に従うことが一般です。
 「原告会社は、本件売買契約中の右特約に基づき、A(筆者注;買主)に対し原告会社の各賃借人に対する債務を原告会社に代わって返済することにより、これを消滅させるよう請求することができる権利を取得したもので、右権利の取得、すわわち、敷金・保証金の返還債務を免れる利益は、本件土地建物の譲渡に係る「収益の額」ないし「総収入金額」に含まれる経済的利益に該当する(神戸地裁平成4年12月25日判決)。」

 すなわち、保証金等相当額は譲渡対価を構成するということであり、上記の例に当てはめれば、売主は保証金等相当額を含めた1億500万円で不動産を譲渡したことになりますので、買主の不動産取得価額は保証金等相当額を含めた1億500万円になります。

 もし買主が保証金等相当額を取得価額に算入しないで簿外としてしまった場合には、建物の取得に係る消費税の仕入税額控除漏れや減価償却費の過少計上による税負担の増加といった問題が生じることになり、保証金等返還時の税務会計処理でも問題が生ずることになります。

 このように初めて遭遇する取引慣行については取扱いを充分に検討しないと処理漏れや誤処理により思わぬ税負担が生じてしまい、また,後年において修正申告や更正の請求が必要となりますので、充分にご注意ください。

2010年11月4日 (担当:栗田倫也)

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