2009年5月29日

法的整理の事実がある場合の金銭債権の一部評価損(部分貸倒れの法理)

 平成21年度の税制改正により、資産の評価損の損金算入規定が見直され、企業再生が行われる場合の金銭債権が評価損の計上対象資産に追加されました(法法33②)。すなわち、改正前においては、評価損が計上できる資産は、「預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権を除く」資産とされていましたが、改正により、この限定はなくなりました。

 金銭債権が評価損の計上対象資産から除かれていた趣旨は、債権の性質上、その回収価値を正確に測定することは極めて難しいため、評価減という資産評価のルールには乗せないということでした。この測定の困難性は、別途、貸倒引当金制度で解決することとされています。

 ところが、法人税法における貸倒引当金は形式的な引当額しか認められないことが多く、法的整理の認可決定等を除き、その繰入額は超保守的な見積計算であり、加えて貸倒引当金の設定対象から保証金等の金銭債権は除かれている(法人税基本通達11-2-18)など、昨今の債権の多様化に対応しておらず、引当金による帳簿価格の減額は必ずしも個々の金銭債権の価値を表しているものとはいえませんでした。

 他方、回収不能額について貸倒損失を計上しようとしても、「金銭債権の全額が回収不能であることを要」し、「全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならない」(最判・平成16年12月24日)ため、一部の貸倒損失の計上はできません。

 このように金銭債権の一部回収不能額の損金算入が法人税法上制限されていたため、有力な学説では、全額回収不能ということまでは要求されない「部分貸倒れ」や「一部評価替え」の考え方が提唱されていました。この考えは、例えば、10億円の債権のうち7億円の回収可能性がなくなった場合に、7億円の部分についてだけ貸倒損失や評価損の計上を認めようとするものです。

 今回の改正では、金銭債権が評価損の計上対象資産として追加されたことから、「部分貸倒れ」や「一部評価替え」の考え方が法人税法上認められたようにもみえます。しかし、注意したいのは、その要件として、損金経理が要求されていることです。

 すなわち、法文上は金銭債権が評価損の計上対象資産に追加されてはいるものの、評価損を計上するためには別途「損金経理」が要求されており、会社の確定した決算において費用または損失として経理することが必要とされますが、現行の一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においては、金銭債権の一部について評価損を計上することは例外的にしか認められていないため、確定した決算において評価損を計上することは多くの場合不可能であり、結果的に、従前どおり法人税法上金銭債権にかかる評価損の損金算入はできないことになります。

 会社更生法や民事再生法の認可決定等に至らない場合などの企業再生において、金銭債権の回収不能額を損金に計上するには、やはり、貸倒引当金や貸倒損失の計上で対応するしかなさそうです。

2009年5月29日 (担当 後 宏治)

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