2007年11月28日

GCAの「三角株式移転」を用いた経営統合

東証マザーズ上場のM&AアドバイザリーファームであるGCAホールディングス株式会社(以下「GCAH社」といいます。)は、去る平成19年11月1日、「三角株式移転」を用いて米国カリフォルニア州に本社のあるSavvian,LLC.(以下「Savvian LLC」といいます。)との間で経営統合をすることを同社の取締役会で決定したことを発表しました。

Savvian LLCはGCAH社と同様にM&Aのアドバイザリー業務を行う独立系投資銀行で、GCAH社はこの経営統合により、クロスボーダーM&Aの取り扱い件数を増加できる体制を整え、海外案件の比率を高めていくことを目指すとしています。

GCAH社のプレスリリースによれば、この三角株式移転のスキームは、①Savvian LLCの持分権者が現物出資を2度行うことによりその持分権を間接的に保有することになる日本法人サヴィアン株式会社を設立する。②GCAH社とその日本法人との間で共同株式移転によってGCAサヴィアングループ株式会社(以下「持株会社」といいます。)を設立し、その持株会社の普通株式184,920株をGCAH社の株主に、151,299株を日本法人の株主(つまりSavvian LLCの持分権者になります。)に割り当てる。となっています。

この方法により国内企業が外国企業との経営統合を行うのは初めてのケースであり、今後のM&Aの動向に少なからず影響を与えるものと思われますが、同時に今回の経営統合は会計・税務の観点からも大変興味深いものとなっています。

会計面では、今回の株式移転に持分プーリング方式の適用が予定されている点が注目されます。
企業会計基準委員会の調査(注1)によれば、平成18年4月1日から平成19年7月2日までに提出された有価証券報告書又は半期報告書を対象とした日本国内における持分プーリング法及びパーチェス法の適用件数調査の結果、パーチェス法113件に対し持分プーリング法はわずか3件でした。また、米国ではパーチェス法の適用に一本化されています。

仮にパーチェス法による会計処理を適用するとすれば、サヴィアン株式会社の株主に割り当てられる株数、GCAH社の株価(注2)、及びSavvian LLCの純資産(注3)を考慮すると持分会社には相当な額ののれんが発生し、その償却負担が重くのしかかることになります。

日本においても国際会計基準とのコンバージェンスのため、将来的には持分プーリング法は使用できなくなる方向のようですが、現在の日本の会計基準では一定の要件を満たせば持分プーリング法による会計処理が認められているわけですから、財務的なメリットが得られる方法を適用するのもうなずけます。

一方税務面では、今回の株式移転は日本の税制上適格株式移転になる予定との見通しがプレスリリースにありますが、一方の株式移転完全子法人であるサヴィアン株式会社の事業について、共同事業を営むための組織再編の適格・非適格の判定要素の一つである事業関連性の判定の前提となる「事業性」を有するかどうかということが問題になるかも知れません。

なぜなら、サヴィアン株式会社は今回の株式移転のために設立された新会社で、設立直後では出資持分のみを保有するペーパーカンパニーですが、現在の日本の税法上、実態として事業を行わないペーパーカンパニーのままであれば、「事業性」がない「再編準備会社」と課税当局から認定され、適格要件を満たさないと判定される可能性があると思われるからです。

この「事業性」については、平成19年4月13日の法人税法施行規則の改正で、固定施設や従業者があること、商品販売等やそのための広告宣伝、市場調査等の行為を行っていることといった判定基準が同規則第三条に規定されました。
そしてこの判定基準を満たすためには、組織再編の成否に関わらず、組織再編の相手方のためではなく、自己の名義と計算において商品販売等の行為を行っていると認められることが必要であるとされています。
すなわち、サヴィアン株式会社が「再編準備会社」に該当しないとされるためには、少なくとも、組織再編をあてにせず、自らの収益目的のために自ら事業を行うとの前提を有する「事業準備会社」である必要があります。

現在のところ、「事業準備会社」と認定されるための具体的な基準は明らかにされていませんが、今後このような形の組織再編が増加することが予想されることから、今回のケースを契機に具体的な基準が明確化されることが望まれます。

GCAH社は、今回の株式移転が税法上適格株式移転とならない場合、また、会計上持分プーリング法の適用ができない可能性がある場合その他一定の場合には株式移転が延期ないし中止されることがあるとしており、今後の展開が注目されるところです。


注1 平成19年10月16日「企業結合会計に関する調査報告要旨」企業会計基準委員会
注2 GCAH社の平成19年11月1時点の株価終値は661,000円。
注3 Savvian LLCの平成19年9月末日現在の純資産は1,502百万円(プレリリースによる。)

2007年11月28日(担当:中村 敬)

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