2007年1月25日

信託法の改正に伴い信託税制が改正されました~平成19年度税制改正より

平成18年12月8日、第165回臨時国会において「改正信託法」が成立し、同15日に公布されました。この「改正信託法」では、多様な信託の利用形態に対応するために新たな信託制度を導入することがその改正の目的の一つとされています。平成19年度税制改正大綱では、この新しい信託制度に対応するための税制を整備する旨が記載されています。

現行の税制において、信託への課税は一部の信託を除き受益者課税(パススルー課税)を原則としていますが、改正後の税制では、この受益者課税が原則であることは維持しながらも、新しい信託制度により不当に法人税等を回避することが想定されるものに対処するため、受託者段階での課税を行う範囲を広げました。

具体的な課税方法としては、信託収益の発生時に受益者に課税する「受益者段階課税・発生時課税」、信託収益を現実に受領した時に受益者に課税する「受益者段階課税・受領時課税」、信託段階において受託者を納税義務者として法人税を課税する「信託段階法人課税」の3種類が定められました。

1.受益証券発行信託

改正信託法では、これまで特別法にその定めのある信託(投資信託、貸付信託及び特定目的信託)に限られていた受益証券の発行が一般的な信託にも認められることになります。

この受益証券発行信託に対しては、原則として受託者において信託段階法人課税されたのち信託収益分配時に配当として受益者にも課税がなされますが、次の要件を満たす場合(「特定受益証券発行信託」という。)には、信託段階法人課税はなされず信託収益が分配されたときに受益者段階課税・受領時課税のみがなされます。なお、特定受益証券発行信託の収益の分配については、配当控除又は受取配当等の益金不算入の規定は適用されません。

①受託者が税務署長の承認を受けた法人であること。
②信託に係る未分配利益の額が信託の元本総額の1,000分の25相当額以下であること。
③各計算期間が1年以下であること。

受益証券の発行は任意ですので、特定受益証券発行信託に該当しない場合には、受益証券は発行しない方が無難のようです。

2.目的信託

改正信託法では、受益者の定めのない信託(目的信託)が創設されますが、この目的信託に対しては受託者において信託段階法人課税がなされます。

さらに、目的信託を利用した、法人税率と相続税率等の差を利用した租税回避や、世代飛ばしによる贈与税の租税回避が行われないような措置も講じられています。

3.租税回避防止税制

改正信託法では、委託者が自ら受託者となる信託(自己信託)が創設されますが、自己信託などにより法人同様の事業を行う信託が創設された場合に法人税の回避が起こることが指摘されていました。そこで、自己信託を含めた信託一般の中で、法人税の不当な回避が見込まれる以下の類型の信託については受託者において信託段階法人課税がなされることになりました。

①当該法人の事業の全部又は重要な一部が信託され、かつ、その受益権の50%超を当該法人の株主に交付することが見込まれること(その信託財産に属する金銭以外の資産の種類がおおむね同一である場合等を除く)。
②その受託者が当該法人又は当該法人との間に特殊の関係のある個人若しくは法人(以下「特殊関係者」という。)であり、かつ、その信託期間が20年を超えるものとされていること(当該信託の信託財産に属する主たる資産が、耐用年数が20年を超える減価償却資産(減価償却資産以外の資産を含む)又は償還期間が20年を超える金銭債権とされている場合等を除く)。
③その受託者が当該法人又はその特殊関係者であり、かつ、その受益権の一部を当該法人の特殊関係者が保有する信託で、当該関係者に対する損益の分配割合が変更可能であること。

4.損失制限措置

現行税法では、原則パススルー課税が認められている事業体では、受益者段階での損失の取込みに制限が設けられていますが、信託についてはありませんでした。平成19年度改正では、信託についても組合等パススルーが認められている事業体と同様の損失制限措置が導入されることになりそうです。今後損失が生ずるおそれのある信託を設定する場合には注意が必要です。

上記の改正は、改正信託法の適用を受ける信託について適用されます。改正信託法の施行は公布の日から1年6ヶ月以内とされています。

2007年1月25日(担当:中村 敬)

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