2004年11月24日

西武鉄道上場廃止と非上場株式の評価~流動性ディスカウントと財産評価基本通達

先日東京証券取引所は、西武鉄道株を12月17日に上場廃止にすると発表しました。同社が40年間以上も大株主の持ち株比率を有価証券報告書に過少に記載して、親会社がコクドであることを明らかにしていなかった理由からです。

西武鉄道が上記の事実を公表したのは、10月13日の夕方です。この一連の不祥事を受けて、その株価は公表直前の1,081円から、11月16日には249円の年初来最安値をつけました。約77%の下落です。

ここで注目したいのは、この暴落の原因は、表面上上場廃止だけであるということです。すなわち、西武鉄道の財政状態も経営成績も10月13日の前後で特に大きな変化はなく、単に、上場廃止により株式の流動性が将来著しく減少することになったに過ぎません。

ところで、M&Aにおける非上場株式の評価上、類似の上場会社と比較する「類似会社比準方式」というものがあり、算出された企業価値から20%~30%の減額をすることが一般です。非上場企業の株式は容易に売却することができず、流動性、換金性の観点からはリスクが高くなっています。したがって、非上場企業の株式の価格算定のためには、上場株価を基準に算定された企業価値からそのリスク分を割り引かなければならず、この割引を一般に流動性ディスカウントと呼びます。

他方、財産評価基本通達では、非上場株式の評価に、上場株式等の取引価額に準じた価格として類似業種比準価額が取り入れられています。その際、大会社は30%、中会社は40%、小会社は50%の斟酌率での割引きが認められています。この斟酌率は、1.計数化が困難であるため比準要素とすることができない株価構成要素があること、2.現実に取引市場をもたない株式の評価であること、3.会社規模が小さくなるにしたがって上場会社との類似性が希薄になっていくことから、評価の安全性を見込んで定められています。つまり、流動性ディスカウント等による減額が30%~50%認められています。

西武鉄道は大会社に該当しますので、もしも類似業種比準価額で西武鉄道株式を評価したとしたら、30%のディスカウントで評価することになります。しかし、現実には、株価は70%以上も下がっています。 とすると、非上場株式の評価における30%の流動性ディスカウントは低すぎる、すなわち、株式の評価が高すぎるということになりそうです。そこで、非上場株式の類似業種比準価額では、一般にその斟酌率を70%以上とするべきであると主張できないでしょうか?

この主張はおそらく困難でしょう。というのは、今回の暴落の原因は、確かに上場廃止ということですが、企業価値を考えると、失われたのは「流動性」のみならず、会社の「信用」「名声」「のれん」であるということに気付きます。

鉄道運送という公益的な事業であることから、西武鉄道の株価の暴落のうち、信用を失うことによる部分はかなりの割合を占めるでしょう。この一事をもって、非上場株式の評価減を目論むことはうまくいきそうにありません。

2004年11月24日(担当:後 宏治)

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