2020年11月25日

「取引相場のない株式」子会社保有の土地や上場有価証券は時価評価
~個人株主から法人への譲渡価額の計算方法の明確化~

 以前の2020年7月8日付UAPレポートでお伝えしたように、取引相場のない株式の譲渡の時における価額を争点とした令和2年3月24日最高裁判決における裁判官の補足意見を契機として「所得税基本通達59-6〈株式等を贈与等した場合の「その時における価額」〉」が改正されました。また、国税庁資産税課は、この改正についての趣旨説明※1(以下、「情報」といいます。)を、令和2年9月30日付で公表しました。

 これらを踏まえ具体的な改正内容を見てみると、株式を譲渡した個人株主が配当還元価額を適用できる「少数株主」に該当するかどうかの判定時期について、評基通の読み替え規定を置くことにより分かりやすくし、譲渡直前の議決権の数により判定することを明確化しました。

 通達本文の改正はこれだけですが、「情報」は別添において、従来、実務上不明確であった所得税基本通達59-6の運用について、その取り扱いを明らかにしました。

 その概要は次のとおりです。


①(実態に応じたしんしゃく割合の適用)
類似業種比準価額を算出する計算において類似業種の株価等に乗ずるしんしゃく割合は、実際の会社規模に応じた割合にする。
②(子会社株式への小会社方式の適用)
評価会社が有する子会社株式の価額を算定する場合、評価会社が子会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときには、子会社が「小会社」に該当するものとして「純資産価額方式」又は「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式(Lを 0.5 として計算)」による価額とする。
③(子会社保有の土地と上場有価証券の時価評価)
②の計算上、評価会社が有する子会社株式で「純資産価額方式」で評価する場合において、子会社が有する土地及び上場株式も譲渡等の時における価額(≠相続税評価額)によって評価する。


 従来、実務上、評価会社に小会社方式を適用する場合には、「評価会社=小会社」として準用された評基通の規定のすべてを統一的に適用する傾向があったのですが、①で明らかになったように、今後は、会社規模等の実態に応じて「大会社」や「中会社」としての評価が必要となる場面もでてきます。

 また、「所得税基本通達59-6の適用範囲は評価会社だけでありその子会社には及ばない」と考えて、その子会社株式を類似業種比準価額で評価したり、その純資産価額の算定上、土地や上場有価証券を相続税評価で評価する実務も見られましたが、これからは原則として、子会社株式は小会社方式により評価し、さらに、子会社保有の土地と上場有価証券は時価により洗い替えることになります。

 これら一連の「所得税基本通達59-6」に係る取り扱いの整理・明確化の実務への影響は大きなものがあります。金庫株、組織再編、持株会社対策など、相続税の節税対策として株の譲渡を伴うものを検討している場合には、譲渡価額の再計算が必要となり、効果が十分かを含め対策全体の再検討が必要になると思われます。

2020年11月25日 (担当:後 宏治)

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※1 資産課税課情報 第22号「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」の趣旨説明(情報)(令和2年9月30日)

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