2020年4月 6日

遺留分侵害額請求と相続税の課税価格の計算

 令和元年7月1日以後に開始した相続では、改正された遺留分制度が適用され、遺留分を侵害された人は、遺留分に関する権利を行使することにより、金銭債権である「遺留分侵害額請求権」を有することとなり、その支払いを求めることができます。

 遺留分侵害額の支払いの請求がされた場合でその金額が確定したとき、金銭を支払うこととなった相続人は更正の請求をすることができ(相法32①三)、金銭を取得した相続人は期限後申告または修正申告ができます(相法30①、31①、相基通30-1(3))。

 また、このときの相続税の課税価格の計算は、下記のとおりとなります。


①金銭を支払う相続人 A-B
②金銭を受け取る相続人 A+B
 A:相続等により取得した現物の財産の価額
 B:遺留分侵害額相当額


 ここで注意したいのはBの「遺留分侵害額相当額」の計算です。

 Aの金額は相続税評価額であり、原則として財産評価基本通達によって算定されます。他方、Bの金額の算定の基礎となる「遺留分侵害額」は、民法上の時価により計算される遺留分の侵害額であって、相続税評価とは無関係に算定されるものです。

 ところで、相続税評価額は、一般的に、民法上の時価よりも保守的に低く定められている(例えば、路線価地域内の宅地なら、その路線価は時価とされる公示価格の80パーセント水準に設定されています。)ので、遺留分侵害額そのものを相続税の課税価格に加減算すると、金銭を支払う相続人の相続税の課税価格が小さくなり、逆に、金銭を受け取る相続人の課税価格がその分大きくなるというアンバランスが生ずるケースがでてきます。

 こうした不都合を避けるため、相続により取得した財産に加減算する金額は、遺留分侵害額そのものではなく、「遺留分侵害額相当額」とされ、さらに、この額を計算するにあたっては、実務上、以下の2種類の課税価格の調整計算が認められています※1

①代償分割に準じた方法

 遺留分侵害額請求の基因となった遺贈等に係る財産が特定され、かつ、遺留分侵害額がその財産の相続開始の時における通常の取引価額を基として決定されているときには、次の算式により計算した金額が「遺留分侵害額相当額」となります。


A×B/C
 A:遺留分侵害額
 B:相続開始時における相続税評価額(財産評価基本通達により評価した価額)
 C:その財産の遺留分侵害額の決定の基となった相続開始の時における価額


②①に準じた方法等の合理的な方法

 共同相続人等(遺留分義務者を含む。)の全員の協議に基づいて、①の方法に準じた方法または他の合理的と認められる方法により「遺留分侵害額相当額」を計算して申告する場合には、その申告した額として差し支えないとされています。

 改正された遺留分制度では、お金による解決が原則となり、遺産の共有を避けることが容易になりました。遺留分侵害額が民法上の時価により決まった場合には、相続税の課税価格を計算するに際して調整計算を行い、相続税の負担を公平にする必要がある場合があることを忘れないようにしましょう。

2020年4月6日 (担当:後 宏治)

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※1  国税庁資産課税課「資産課税情報第17号 相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」12頁

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