2019年10月10日

成年後見制度と小規模宅地等の評価減特例~生計一要件の充足に注意

 小規模宅地等の特例には、対象地の利用者やその取得者が生計一親族であることが要件とされる類型のものがあります。

 例えば、親の宅地の上で長男(=生計一親族)が事業を営んでいる場合、親の死亡後、長男がその宅地を相続により取得して申告期限まで事業を継続すれば、特定事業用宅地等に該当し、相続税の評価上、400㎡まで80%の減額を受けることができます。他にも、生計一の親族が居住している親所有の宅地等が特定居住用宅地等に該当し、この特例の適用が可能となるパターンもあります。

 ここで、生計一親族とは、被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族をいい、実務上、所得税法の「生計を一にする」親族と同義に解されています。

 具体的な判定は、同居親族の場合、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされ、非同居の場合には、単身赴任等の別居理由と生活費や医療費等(以下、生活費等といいます。)の負担状況によって個別に判定します(所基通2-47)。

 要するに、生計一とは「お財布がひとつ」ということで、同居していたら原則として生計一になり、非同居ならば生活費等の負担の実態により生計一かどうかを判定します。

 また、生活費等を誰が支払っているかに着目すると、「子が親の分を負担する」場合と「親が子の分を負担する」場合の2つがあります。

 ここで、親が高齢になり認知症等により成年被後見人になってしまうことを考えます。

 「子が親の分を負担する」場合において親が成年被後見となったときには、同居・非同居を問わず、子が親の生活費等を継続して負担することになるため、生計一関係は基本的には影響を受けません。

 しかし、「親が子の分を負担する」場合には、親の後見人から、子の生活費等は子が負担することが求められるので、生計一でなくなる可能性がでてきます。

 成年後見が開始すると、後見人が本人(=被後見人である親)の財産のすべてを管理します。判断能力に問題のなかったころに親が行っていた子の生活費等の支出は、後見開始後は、後見人から支払われます。

 ところで、後見人の義務は、本人の利益を守ることです。それゆえ、被後見人の財産から支出できる生活費等は、被後見人の生活にとって必要なものの範囲に限られます。

 すなわち、子などの家族への支出は、本人の扶養義務や保護義務の範囲内の支出しかできません。無職の配偶者や未成年の子に対しては、本人が保護義務者となるので、生活費等を支給できますが、成人に達した子などの生活費等は、被後見人の財産から当然に支出できるものではありません。したがって、子に収入や資産がある場合には、その子の家族の生活費等の本人からの支払いは原則として不可能です。

 たとえ同居していて子の家族の生活費等をまとめて親が支払っていたとしても、後見が開始したあとは、頭数で割るなどして合理的に算定された負担額しか親の財産からは支払われません。同居していない子の生活費は、より明確に区分できるため、親の財産から支払われることはないでしょう。

 つまり、親は、自分の生活費等しか負担できなくなります。その結果、親と子の家計は、明らかに独立となり、別生計となってしまいます。

 この点、小規模宅地の特例の適用上、生計を一にするということは、「単に金銭を負担しあう関係にあるかどうかではなく、介護などで日常生活において相手に力を与え助けることを経常的に行っているかどうかに判断基準を置くべきである」として非同居の納税者が争った裁決があります。

 国税不服審判所は、「生計」を、暮らしを立てるための手立てであり、通常、日常生活の経済的側面を指すものだと解し、原告の親子が日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係ではないとの事実認定を行い、課税庁の更生処分を是認し、結果的に納税者が負けています(国税不服審判所・平成30年8月22日裁決)。

 このように親が認知症となるリスクがある場合には、小規模宅地等の評価減の特例の適用上、生計一要件を満たせなくなる可能性がでてきますので、事前の慎重な検討が必要です。

2019年10月10日 (担当:後 宏治)

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