2017年10月27日

《所得拡大税制を考慮した欠損金引継ぎ方法の選択》

 以下の状況の2つの法人があります。
 ・A社は業績好調で継続的に所得が出ており、納税している。
 ・B社は2~3年前から業績が悪化し、その後規模の縮小、リストラを続けて欠損金が累積している。

 ・B社の事業は今後回復が見込めないと考え、事業の廃止を検討している。
 ・B社が事業を廃止する際には、A社はB社の従業員を引継がない予定である。
 ・A社はB社の株式を100%所有している(完全支配関係にある)。

 この場合、B社の欠損金を有効活用するために、A社及びB社において次のいずれかのスキームを企図することがあります。
 (1)A社を合併法人、B社を被合併法人として吸収合併(適格合併)する。
 (2)A社の100%子会社であるB社を清算する。

 両スキームとも、実施することでA社においてB社の欠損金を引継ぐことができます。その結果、A社においてその欠損金を利用することで所得を減少し節税することができます(諸条件により欠損金の引継ぎ又は利用の制限を受ける場合がありますが、今回は制限を受けないものとします。)。

 従って、欠損金の引継ぎの観点のみで考えると、(1)(2)どちらのスキームを選択しても結論は変わりません。

 しかし、(1)又は(2)のスキーム実施後にA社において所得拡大税制の適用を受ける場合には、(1)のスキームを実施すると不利益が生じる可能性があります。

(1)(2)のスキーム両方とも、A社で以下の3要件を満たす場合には、所得拡大税制の適用を受けることができます。
(税制の内容及び用語の定義は、国税庁のホームページ※1を参照ください。)
 ①雇用者給与等支給増加額が基準雇用者給与等支給額より一定割合以上増加
 ②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上
 ③平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えている(中小企業者等以外の場合には、一定割合以上)

 ただし、法人が合併した場合には合併法人において①の基準雇用者給与等支給額及び②の比較雇用者給与等支給額の計算に一定の調整が必要となります。

 (1)のスキームを実施した場合、合併法人であるA社は合併した事業年度以降の各事業年度において①及び②の判定の際に、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額にB社のその対応する事業年度の月別給与等支給額も加味して判定する必要があります。②の要件は適用事業年度とその前事業年度の給与等支給額を比較するため、A社の年度が進むことでいずれB社の影響はなくなりますが、①の要件の基準雇用者給与等支給額は年度が進んでも変わらないため、常にA社の基準事業年度に対応するB社の月別給与等支給額を加味して判定することになります。

 一方、(2)のスキームでは(1)のスキームのときのような一定の調整はなく、①~③の判定はA社のみの金額で行います。

 従って、(1)のスキームを実施した場合には、①及び②の判定に被合併法人の雇用者給与等支給額も加味して判定することになるため、(2)のスキームを実施した場合よりも所得拡大税制の適用を受けるためのハードルが高くなります。

 上述のように単に同じ欠損金を引継ぐスキームであっても選択したスキームによっては、今後の所得拡大税制の適用で思わぬハードルが生じる可能性があります。実務上、合併を選択するか清算を選択するかは、グループ内の債権債務の状況や保有財産の状況、対外的な印象、従業員対応など会計税務の観点だけでなく多角的な視点での検討を踏まえてスキームの選択がされます。今回の所得拡大税制の観点のみでスキームの選択が行われることはないかと思いますが、スキームを選択する検討項目の1つとして考慮してもよいかと思います。

2017年10月27日 (担当:上田悟志)

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※1 国税庁(タックスアンサー): No.5927 雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制) 

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