2017年10月27日

《委託者の地位承継と不動産流通税》

 信託契約書の作成にあたり悩ましいことの1つが、委託者の地位をどのように定めるかです。委託者の地位は、信託契約書に定めることで、委託者死亡により消滅させることも、受益者など特定の者に承継させることもできます。委託者の地位を承継した者は、受託者の解任権などの委託者固有の権利を持ちますので、この権利を消滅させるべきか、承継させるとして誰に承継させるべきか悩ましい問題となるわけです。

 この点について、信託財産が不動産である場合には、不動産流通税の観点からも検討する必要があります。というのも、将来の信託終了時の受益者への不動産移転時に不動産流通税(登録免許税、不動産取得税)の特例の適用を受けられるか否かは、委託者の地位承継が重要なポイントとなるからです。

 例えば下記のように、父を委託者兼第一次受益者、父死亡時の第二次受益者を母、母死亡時の最後の受益者を長男とします。

 この場合において信託の終了により、受託者から最後の受益者である長男に不動産の名義が移るときの登録免許税は、「信託効力発生時から引き続き委託者のみが元本の受益者」であり、かつ、「受益者が信託効力発生時における委託者の相続人」であれば、通常の移転登記ではなく、相続登記とみなして登録免許税が軽減されます。つまり、信託契約において委託者の地位を受益者が承継すると定めていれば軽減税率の適用があるのですが、委託者の死亡によりその地位が消滅していたり、受益者以外の者が委託者の地位を承継していたりすると、登録免許税は軽減されません。

 同様の規定が不動産取得税にもあり、委託者の地位が相続人である受益者に承継されていれば不動産取得税は非課税となりますが、そうでないときは課税されます。

 委託者の地位承継次第で不動産流通税が劇的に代わるというのも違和感を覚えますが、そのような規定となっており、また、事前照会に対して平成29年6月22日に東京国税局審理課長が回答した文書回答事例※1でもそのような解釈で問題ない旨が公表されています。

2017年10月27日 (担当:平野和俊)

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※1 東京国税局文書回答事例 「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」 

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