2007年8月29日

建物を税務上有利に転売するための消費税簡易課税の選択

~不動産譲渡が第一種事業(卸売業)に当たるとされ、事業者にとって有利なみなし仕入率90%が適用された事例(平成18年12月13日裁決より)~

1.現行実務の取り扱い

SPCの不動産を売却する事業年度については、しばしば簡易課税制度を選択し、申告・納付を行います。原則課税の場合に比べ、納税額が少なくなるためです。(下記数値例参照)


前提
建物売上: 10億円
売却手数料等: 3000万円

原則課税の場合の納税額
10億円×5% ー 3000万円×5% = 4,850万円

簡易課税制度を選択した場合の納税額
10億円×5% ー 10億円×5%×60%=10億円×5%×(1-60%)=2,000万円
                みなし仕入率


上記のように、簡易課税制度を選択した場合の消費税額は、課税売上高の5%に(1-みなし仕入率)を乗じた金額になります。したがって、みなし仕入率が大きければ大きいほど、消費税の納税額は少なくてすみます。

このみなし仕入率は、法令により事業者が営む事業の種類毎に第一種事業(卸売業)の90%から第五種事業(不動産業等)の50%まで10%きざみで率が定められています。
流動化スキームにおいてSPCが行う収益不動産の売却については、消費税法基本通達の「事業者が自己において使用していた固定資産等の譲渡を行う事業は、第四種事業に該当するのであるから留意する。」との定めを根拠とし第四種事業(その他の事業)の60%を適用するケースが多いかと思います。

2.納税者有利の裁決

今回取り上げる裁決は、「事業者は不動産を転売したのかそもそも取引に関与していなかったのか」を中心に争われたものですが、国税不服審判所は、当該論点について事業者は不動産を転売したと事実認定する一方で、建物は取得時の現状のまま他の事業者に譲渡されたのであるから適用すべきみなし仕入率は、第四種事業(その他の事業)の60%ではなく第一種事業(卸売業)の90%であるとの注目すべき判断を下しました。みなし仕入率が増えることは納税額が減ることを意味し、納税者にとって有利な裁決です。

さてこの裁決書によると、税務署は、「建物の譲渡が固定資産の譲渡であるから」第四種事業に当たると主張していました。前述の通達をその根拠としているようですが、一般に税務判断は、行政機関内部の文書である通達ではなく、まずは法令に基づき行われるべきものです。

即ち本件の場合には、消費税法施行令の「卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいう」との要件に該当するか否かがまず問われるべきであり、そうした場合、本件の取引は、条文を素直に解釈すると、取得と同日に譲渡するための「商品」である不動産を「他の者から購入し」、取得と譲渡が同日であり、かつ、使用を示唆する事実もないため使用により「その性質及び形状を変更し」たとは考えにくく、宅地建物取引業者である「他の事業者に対して販売」したことから卸売業に当たることが法令レベルで明らかであり、従って、通達を解釈すること自体が不要であると思われます。

3.この裁決が現行実務に与える影響

法令に依らないのみならず通達を拡大解釈し、「建物→固定資産→通達適用→第四種事業→税金が多く取れる」といった考えで課税処分を行ったのであれば、適正・公平な課税を任務とする組織としては問題があると思われますが、この裁決のみで現行実務の取り扱いが大きく変わり、使用していた不動産の譲渡についても卸売業としてのみなし仕入率の適用が可能になると考えるのはリスクが大きいと考えます。

しかしながら、本裁決にもある通り①購入してきた建物を使用せずに取得時の現状のまま事業者に転売した場合には第一種事業(卸売業。みなし仕入率90%)として、②開発型の案件でSPCが建設した建物を使用せずに販売した場合には第三種事業(製造業等。みなし仕入率70%)として、より有利なみなし仕入率を適用できようかと思います。

①や②以外の通常のケース、すなわち、SPCが取得した収益不動産を一定期間後に他に譲渡する場合のみなし仕入率が60%(第四種事業=その他の事業)か90%(第一種事業=卸売業)かは、以下の諸点について実務上の取扱いが明確ではないため、慎重に判断する必要があります。

・元々テナントが入っている賃貸用の不動産を転売目的で取得して転売した場合であっても「性質及び形状を変更し」たことになるのか
・1日であっても使用したり貸し付けたりした時点で第四種事業とされるのか
・たとえ相当期間使用していたとしても不動産の転売のみなし仕入率が60%であることはそもそも経済実態にあってないのではないか
・不動産が固定資産ではなく棚卸資産である場合はどうなるのか

等、法令・通達においてもう少し明確な定めをおくことが望まれますが、不動産売却時の留意点の一つであり、ひいては短期・少額の賃貸が予定される場合にそもそも賃貸するかどうかの判断にも影響を与えるため、課税事業者の選択等他の消費税の取り扱いとともに事前にきちんと検討すべきテーマであると思われます。

2007年8月29日(担当:吉岡 純男)

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