2021年4月13日

居住用家屋の敷地のみの「おしどり贈与」~贈与税の配偶者控除~

 自宅を妻に相続させたい場合、その敷地面積が広大で小規模宅地等の評価減特例の限度面積(=330㎡)を超えるとき、その超える部分は相続時に80%の評価減を受けられなくなり、結果として相続税の配偶者控除額(1億6千万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額)を無駄に埋めてしまいます。このようなときに有効なのが、夫婦の間で居住用の不動産を贈与し、「配偶者控除特例」を利用することです。

 贈与税の配偶者控例特例とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。

 節税の観点から、小規模宅地等の評価減特例の限度面積を超える面積の土地をできるだけたくさん贈与したいと考えるのであれば、居住用家屋は贈与せず、その敷地のみの贈与が効率的です。

 この点、居住用家屋の敷地のみの贈与において特例適用が可能なのかが問題となります。居住用不動産とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものをいいます。典型的には、自宅家屋とその敷地を居住用不動産といいますが、課税庁は、以下のいずれかの要件を満たすことにより、敷地のみの贈与について特例の適用を認めています(相基通21の6-1(2))。

①夫または妻が居住用家屋を所有していること。
②贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有していること。


 この贈与によって、敷地が夫婦の共有になり、夫の死亡時には夫の共有持ち分は妻が相続することになります。こうした相続であっても、小規模宅地等の特例の適用上、総面積に夫の持ち分を乗じて計算した面積のうち限度面積(=330㎡)までは、8割評価減を受けられることは変わらないので、自宅敷地の生前贈与の影響はありません。

 また、自宅敷地が地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。)に該当すれば一定の評価減を受けることができますが、複数の者による共有地の場合、このときの地積規模要件の判定は、共有者の持分に応じて按分する前の共有地全体の地積によることとされる(国税庁HP質疑応答事例「地積規模の大きな宅地の評価-共有地の場合の地積規模の判定」)ので、自宅敷地の生前贈与による共有が不利にはたらくことはありません。

 敷地のみの贈与によって不利な影響が考えられるのが、自宅を夫婦で譲渡した場合の所得税の居住用財産3,000万円特別控除の適用においてです。

 そもそもですが、贈与税の配偶者控除の適用要件の一つに、申告期限後も妻が引き続き住む見込みであることが必要とされるため、贈与後に自宅を売却する見込みがあれば、贈与税の配偶者控除の特例は使えません。しかし、贈与税の申告期限においては引き続き住む見込みがあったものの、その後の事情変化によりやむを得ずこれを譲渡する事態も想定されます。

 敷地のみの贈与後に想定外の事態が生じて夫婦で自宅を譲渡した場合、居住用家屋の持ち分を有していない妻は、原則として居住用3,000万円特別控除の適用ができません。例外的に生計一同居親族等の一定の要件を満たした場合には特例適用が認められます(措通35-4)が、それでも夫が使わなかった特別控除枠の残りまでしか特別控除が使えません。つまり、夫婦合わせて3,000万円控除となり不利になります。そのため、夫が生存中に自宅の売却の可能性が潜在的にあるときには、敷地のみではなく、少しでもいいので居住用家屋の持ち分も一緒に贈与しておきましょう。そうすれば、夫婦で合計6,000万円の特別控除が取れ、有利になります。

 なお、居住用財産の長期譲渡所得に係る軽減税率の特例は、上記と同じ生計一同居親族等一定の要件を満たした上で申告することにより、敷地のみの贈与で家屋の持ち分がない場合であっても夫妻ともに認められます(措通31の3-19)し、家屋の持ち分が妻にあれば両者とも文句なく認められます。

 このように、広大な自宅に住んでいる人にとって、おしどり贈与は有効です。実務では、登録免許税・不動産取得税がかかるというデメリットと妻死亡時の二次相続税の負担増加を計算して実行するかどうかを考えます。その際、不測の自宅売却時に有利になる可能性が残るため、保険の意味で家屋持ち分をほんの少しでも同時に贈与したほうがいいと考えられます。

2021年4月13日 (担当:後 宏治)

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