2021年3月11日

はっきりしない清算型遺贈に係る譲渡所得課税

 非婚化、無子化の進行により、配偶者や子供といった相続人が存在せず(あるいは疎遠な兄弟・甥姪しか相続人が存在せず)、お世話になった友人や団体に遺産を渡したいというニーズが増えています。このような場合に、死後に遺言執行者に自宅等の遺産を売却してもらい、医療費や葬式費用等を支払った残金を、特定の第三者に遺贈する旨の遺言を作成することがあります。このような遺贈を清算型遺贈※1と呼んでいます。

 清算型遺贈には、民法上や不動産登記上の論点も多くありますが、下記のように譲渡所得課税の取扱いがはっきりせず、その普及を妨げる要因になっていると懸念されます。

1.譲渡所得税の納税義務者は相続人か
 相続人が存在する場合において、遺言執行者が旧自宅等を売却した時は、その登記簿上の譲渡者は相続人となるため、相続人が譲渡所得税の納税義務者になるとする考え方があります。しかし、何の利益も享受しない相続人を納税義務者とすることには違和感があります。

2.譲渡所得税の納税義務者は受遺者か
 実質所得者課税の原則を根拠に、受遺者が譲渡所得税の納税義務者になるとする考え方があります。この考え方は現実的であり、相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者については納得するところですが、遺言者の債務を承継しない特定受遺者であっても譲渡所得税の納税義務者とすることには多少の無理を感じます。

3.法人が受遺者の場合は、譲渡所得課税か、みなし譲渡課税か
 受遺者が法人の場合には、①譲渡所得税を相続人に代わって法人である受遺者が申告納税する、②みなし譲渡課税(所法59)により遺言者に係る準確定申告で譲渡益について申告納税するという※2、2通りの整理が考えられます。①の整理では、譲渡住民税も相続人に代わって法人が納税することになると考えられますが、実務上可能か良く分かりません。②の整理では、譲渡益は遺言者の死亡年の所得となるため、譲渡住民税は課税されません。但し、みなし譲渡所得課税に係る準確定申告の納税義務者は相続人及び包括受遺者ですから、特定受遺者である法人は準確定申告の納税義務者にはなれないという問題が残ります。

2021年3月11日 (担当:平野和俊)


1

※1 清算型包括遺贈、換価遺言などとも呼ばれます。

※2  清算型遺贈は、遺言者の遺産が直接受遺者に遺贈されるわけではないので、法人が受遺者であっても、ストレートにはみなし譲渡課税(所法59)の適用はないと考えられるところ、清算型遺贈においても実質的には受遺者である法人に資産が移転しており、みなし譲渡課税により含み益を精算する考え方です。

ページトップへ