2019年3月22日

相続取得した自宅に相続後一度も居住していなくても小規模宅地等の減額特例の適用は可能か?

 自宅に同居していた夫婦が有料老人ホームに二人で入居した後、先に夫が死亡し、夫の相続により妻が自宅を承継取得したものの、一度もその自宅に戻ることなく妻が死亡した場合、妻の相続において小規模宅地等の特例の適用が可能なるのでしょうか?
 妻の死亡直前に妻が自宅に居住していなくても、有料老人ホーム入居直前に妻が自宅を「所有者として」居住の用に供していれば、問題なく特例の適用は可能です(措法69の4①)。

 しかし、上記のように、自宅の所有者となった後には一度も居住していない場合に、小規模宅地等の特例の適用ができるのかは明確ではありませんでした。

 この疑問点につき、東京国税局は、先日、文書回答事例※1を公表し、妻の相続においても夫から相続した自宅が特例適用対象となることを明らかにしました。

 その理由は、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等が、本件特例の対象となる居住の用に供されていた宅地等に該当するか否かについては、被相続人が有料老人ホーム等に入居等して居住の用に供されなくなった直前の利用状況で判定することとされているが、その時において被相続人が宅地等を所有していたか否かについては、「法令上特段の規定は設けられていない」からだとしています。

 このように、所有者として居住の用に供されていなくても、小規模宅地等の減額特例の適用は認められますが、譲渡所得に係る居住用特例とは真逆になっている点が注目点です。

 すなわち、相続により家屋の所有権を取得してから売却するまでにその家屋に居住したことがなかった場合には、所有権の取得前に居住していたとしても、3000万円の特別控除の特例(措法35①)を適用することはできないとされています(平成28年7月25日裁決)。

 つまり、相続税の小規模宅地等の減額特例とは異なり、所得税の居住用財産の譲渡所得の特別控除特例では、法令上特段の規定はないものの、解釈により「所有者として居住の用に供していた」ことを要することとされているのです。

 なお、平成31年度の税制改正では、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例が拡充され、被相続人が自宅から転居し相続の直前に老人ホーム等に入居した場合も適用対象とされています。

 夫が先に老人ホームに入居した後、しばらくしてから妻も続いて老人ホームに入居する場合などには、夫の死亡後妻が一度も居住することなく空き家のまま死亡するケースも想定されるところですが、空き家特例の適用対象となるかどうかは今後公表される政令通達等を見ないとよくわかりません。しかし、この空き家特例(措法35③④)も居住用財産の譲渡所得の特別控除特例ですから、3000万円控除特例と同様、「所有者として居住の用に供していた」ことが必要とされる可能性もあると思われます。

 いずれにせよ、租税特別措置法で各種特例を設けるのはいいのですが、国民の多くが有料老人ホーム等に入居して老後を迎える時代の到来という社会の変化に対応し、要件としての「居住」概念について、解釈によるのではなく、法律によりその意義を明確にすべきだと考えます。

2019年3月22日 (担当:後 宏治)

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※1 老人ホームに入居中に自宅を相続した場合の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)の適用について

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