2019年2月27日

自宅などの民事信託設定が公序良俗違反で無効する東京地裁判決の影響は?

 東京地方裁判所は、自宅などの民事信託設定が遺留分制度を潜脱する意図でなされたものであり、公序良俗に反して無効であるとの判決を平成30年9月12日に下しました。本事案の争点は多岐にわたりますが、「本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効である」とした判示部分が特に注目されます。

 本事案は、高齢の地主(相続人は長男、次女、次男)が、次男に財産の多くを相続させて跡継ぎとする希望があったものの、単純な遺言等では相続後に長男から遺留分減殺請求を受けることが想定されたため、所有不動産全部(自宅約6割、賃貸物件約2割、売却用物件約2割)について次男を受託者とする信託を設定して、受益権割合を長男6分の1、次女6分の1,次男6分の4としたものです。こうすることで、外形上は長男に遺留分割合の受益権を与えるものの、主たる信託財産である自宅から発生する経済的利益を長男に与えないことを可能にするものでした(受託者である次男に自宅の賃貸・売却の意思がないため)。裁判所は、このような事実認定に基づき、信託契約の一部を公序良俗違反により無効であると結論付けました。

 民事信託を利用した相続対策は最近増えていますが、本判決は、外形上は遺留分を与えつつも、実質的な遺留分価値を奪う方法として信託が利用されることへの警鐘であると考えられます。また、気になるのは事業承継で利用される非上場株式の信託です。非上場株式を信託して、議決権もなく、配当もほとんど期待できない受益権を後継者以外の相続人に与える信託が遺留分制度の潜脱目的で利用された場合には、本判決と同様に無効とされる可能性があります。

 本判決は控訴審に係属しており、その判断も待たれるところですが、信託と遺留分制度にてついて判断を下した注目すべき判決となっています。

2019年2月27日 (担当:平野和俊)

 

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