2018年8月 7日

一般社団法人等の理事交代時に贈与税が課税されないのはなぜか?

 すでにお伝えしているとおり※1、平成30年度の税制改正により、一般社団法人等を利用した相続税に係る租税回避防止制度が創設され、一定の要件を満たす一般社団法人等の理事の死亡に際し、その時点における法人の純資産額をベースにして計算したみなし遺贈財産を課税対象とし、その一般社団法人等を個人とみなして(=納税義務者として)相続税が課税されることになりました。

 この新しい相続税の租税回避防止制度は、一族で実質的な支配を維持している法人に対し、支配力の承継を通じた「実質的な財産移転」があったものとして課税するものです。

 つまり、一定の親族理事が死亡によりその支配が残存親族理事に承継されたところをとらえ、これを財産の移転とみてその法人に相続税を課税するのです。

 ところで、支配力が承継されるのは、その理事が死亡したときだけではありません。その理事が生前に交代することによっても同じ効果を得ることができます。

 にもかかわらず、死亡時の支配力の承継には相続税が課税され、生存中の承継には課税されないとなると、皆、早めの理事交代を行うことが想定されます。こうした目論見には、新制度でも一定の対策を講じていて、相続開始前5年以内にその一般社団法人等の理事であった者が死亡した場合にも相続税を課税することとしています。

 したがって、死亡間際に理事を交代することによりこの制度の適用を回避することはできません。しかし、死亡時から5年より前の理事交代にはこうした制限はありません。

 これでは抜け穴になってしまうため、政令や通達等でより厳しい運用がなされるのではないかとの懸念も一部で生じていたところですが、結果として、理事の交代時に贈与税を課税するという仕組みは取られませんでした。

 なぜ、理事の交代時に贈与税を課税しないのでしょうか。

 課税当局の説明によると、一般社団法人等の理事の任期は原則2年とされており頻繁に交代することも予想される中、その都度贈与税を課税することが適当といえるかなど、適正な執行が困難となるからだ※2とされています。

 この説明からは、贈与税は相続税の補完であり、相続税の課税漏れを防ぐため、理事交代時に贈与税を課税するほうが望ましいが、適正な執行が確保できないから見送るという当局の姿勢がうかがえます。

 したがって、生前承継を多くの人が利用して目に余るような事態になると、執行体制を整えた上で税制が改正される可能性も出てきます。理事の交代により贈与税が課税されることは当面ありませんが、相続税対策は長期の視点が大切になりますので、税制改正の可能性についても考慮に入れて、慎重な検討が必要です。

2018年8月7日 (担当:後 宏治)

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※1  UAPレポート「一般社団法人等を活用した相続対策で見直しが必要に~平成30年度税制改正大綱より~ 「一般社団法人等の理事死亡時の相続税課税について同族理事の定義が明確に

※2 寺崎寛之他『改正税法のすべて』566頁(大蔵財務協会、2018)

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