2018年6月 8日

事業承継税制の要件厳格化の可能性について考える

 平成30年度税制改正により事業承継税制に特例措置が設けられました。10年間の限定ではあるものの、贈与税・相続税の負担なく非上場株式等を次世代に移転できる魅力的な制度であり、これまで利用が伸び悩んでいた事業承継税制について今後多数の利用が見込まれています。

 これから事業承継税制の適用を検討する際に注視しておきたいのが、会計検査院が平成29年11月に出した報告書において、適用対象が必要最小限なものになるよう検証すべき租税特別措置(相続税関係)として、事業承継税制が挙げられている点※1です。

 会計検査院は事業承継税制について大きく次の2つの事項を問題視しています。

 ① 多額の資本剰余金を有する会社、平均課税所得が高額な会社が対象となっている。

 ② 事業実態のある資産保有型会社及び資産運用型会社について、事業実態に係る資産以外の特定資産も含めた全資産が納税猶予の対象となっている。

 会計検査院により指摘された事項は、数年のうちに税制改正として反映されることが多いことから、これらの指摘を受けて考えられる規制策について考察してみます。

 まず、①については、資本金の額に対して資本剰余金の額が多額に計上された会社を問題視しています。これは、多額の出資を受ける会社でありながら、減資を行い中小企業の要件を形式的に満たすような会社を事業承継税制の対象とすることを疑問とするもので、資本金と資本剰余金の合計額が一定額を超える場合には事業承継税制の対象外とする等の改正もあると考えられます。続いて、資本金が1億円以下の企業でありながら大企業並みの課税所得(報告書では3事業年度平均で10億円を超える課税所得)の会社を問題視しています。これは、大企業並みの課税所得をあげられる会社であれば中小企業として優遇措置を与える必要はなく、事業承継税制の対象から除外すべきではないかという問題意識かと思われます。確かにそれだけの課税所得を安定的に生み出す会社であれば、会社の上場や株券を担保にした融資等色々とファイナンスの余地もあるでしょうから、一定の制限を設けるというのも一理ありそうです。その場合、課税所得は景気や業績によって年々の変動が大きい指標であり、臨時的所得要因の除外や複数年(例えば3年や5年)の平均値といった配慮がなされた上で、一定の課税所得を超えた場合には事業承継税制の対象から外すといった改正が考えられます。

 次に、②については、事業に関連しない資産(特定資産)の割合70%以上の会社等が一定の要件を満たすことで、特定資産を含めたすべての資産に対し事業承継税制の適用を受けていることについて問題視しています。現在の制度では、資産保有型会社等は原則として事業承継税制の対象となりませんが、常時使用従業員数5人以上等の要件を満たすことで、資産保有型会社等以外の会社と同様の納税猶予を受けられます。事業に関連しない資産や売上が大半を占めるいわゆる資産管理会社については、事業の継続よりも相続税・贈与税の節税を主目的とした事業承継税制の利用も考えられ、こうした会社に対して納税猶予の範囲を限定することには一理ありそうです。この場合、事業承継税制の目的には雇用の確保があることから、実際雇用を生み出している会社を対象から外すような要件の厳格化ではなく、資産保有型会社等については特定資産を非上場株式の価額から除外して納税猶予額を計算する※2といった改正が考えられます。

 事業承継税制の適用を検討する際には、既に法制化された制度に対する理解はもちろんですが、このような将来の改正リスクに対する注意も考慮に入れて慎重に対応したいところです。

2018年6月8日 (担当:吉田暁人)

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※1 会計検査院の報告書が出されたのは、事業承継税制の特例措置が税制改正大綱として発表される前ですので、報告書が対象としているのは事業承継税制の一般制度についてですが、特例措置は一般制度の内容を拡充したもので、基本的骨格を同じくする制度であることから、特例措置についても指摘の影響が及ぶのではないかという前提に立っています。

※2 3%以上の持ち分を保有する上場株式や外国株式等を非上場株式の価額から除外して納税猶予額を計算する取扱いは既に存在します。

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