2017年10月 6日

転換社債による株式保有特定会社のがれの否認~財産評価基本通達の改正

 平成29年の税制改正大綱を受け、株式保有特定会社※1の判定基準に新株予約権付社債を加える財産評価通達の改正案が先日明らかになりました。この改正案は、パブリックコメントを受けた後に最終決定され、平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用することとされています。

 適用開始時期は、広大地に係る通達改正と同じであり、評価が上がる広大地については年内贈与が有利となることは先のUAPレポートでお伝えしたとおりですが、この株式保有特定会社に係る改正についても年内での駆け込み対策が可能なのでしょうか。

 このことを考察する前に押さえておきたいのは、この通達改正は、転換社債(=新株予約権付社債)を利用した株式保有特定会社のがれの事業承継スキームを封ずるためのものだということです。

 すなわち、上場株式を非上場会社に出資し、その非上場会社の株式を類似業種比準方式で評価することで評価額を著しく圧縮して節税するという事業承継スキームが従来から存在しており、その節税防止作として、株式保有特定会社の特例評価による純資産価額評価の強制が用意されています。他方、「新株予約権付社債」は株価と連動して価額が形成されるものの、株式保有特定会社の判定基準には含まれないため、前述と同様な節税が可能となることから、今回の通達改正が行われました※2

 一部新聞報道によると、この改正は、課税庁に租税回避と認定された高額な贈与税の個別事案が契機となったといわれています※3

 この事案とは、上場会社株式を保有する資産管理会社が発行した転換社債を現物出資してできた新会社の株式を、長男に贈与(相続時精算課税を適用)したところ、その低い評価を課税庁が否認し、結果1,500億円超の申告漏れと300億超の追徴課税がなされたものです※4

 新聞報道だけではスキーム詳細と正確な否認理由はよくわからないのですが、課税庁は、財産評価基本通達の形式的な適用を排除し、実態に即した課税をするため、財産評価基本通達の総則6項を適用したようです※5。すなわち、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という伝家の宝刀である総則6項を適用し、より高い金額の評価額で否認したのです。

 そうだとすると、転換社債を利用した同様なスキームによる年内の株式贈与も、実態が高額な株式の贈与であれば、形式的には問題なくても、総則6項の適用で同様に否認されると判断すべきでしょう。来年からの適用だからといって無理に駆け込み対策をすると否認リスクが大きくなりますので注意が必要です。

2017年10月6日 (担当:後 宏治)

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※1 保有する株式及び出資の価額が総資産価額の50%以上を占める非上場会社をいいます。

※2 平成28年11月25日自民党税制調査会資料「納税環境整備」15頁

※3 産経WEST『「転換社債で節税」にNo...税制改正1500億円申告漏れで政府検討』 http://www.sankei.com/west/news/161208/wst1612080037-n1.html参照

※4 毎日新聞記事http://mainichi.jp/articles/20160917/k00/00e/040/295000c、産経ニュース記事http://www.sankei.com/west/news/160917/wst1609170046-n1.html、朝日新聞デジタル記事http://www.asahi.com/articles/ASJ9K2V21J9KPTIL005.htmlを参照。

※5 前掲・朝日新聞デジタル記事などから総則6項が発動されたことがわかります

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