2017年6月 5日

高額特定資産の取得と簡易課税制度の適用

 事業者が消費税の納付税額を計算する際、中小事業者の事務負担への配慮から、簡易課税制度が設けられています。基準期間の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ消費税簡易課税制度選択届出書を事前に提出している事業者が簡易課税制度の適用を受けることができます。

 事業者が事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産を取得した場合、その取得の日の属する課税期間以後、事業者免税点制度の適用及び消費税簡易課税制度選択届出書の提出について一定の制限が設けられています※1。一定期間課税事業者が強制され、また新たに(・・・)簡易課税制度の適用も受けられないことから、その期間中に課税売上割合が著しく変動した場合には、消費税の納付税額を計算する際に仕入れに係る消費税額の調整が必要になります。

 ただし、以下のケースのように高額特定資産を取得した課税期間より前の課税期間に消費税簡易課税制度選択届出書を提出しているような場合には、特に制限なく簡易課税制度の適用を受けられますので注意してください。

<ケース>
・各課税期間は1年で第X-1期まで毎年課税売上高が5,000万円超とする。
・第X-1期に消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、第X期に高額特定資産を取得する。

(1)課税事業者判定(第X期以降)
 高額特定資産を取得した第X期は、基準期間(第X-2期)における課税売上高が1,000万円超であるため、課税事業者となります。第X+1期も同様です。第X+2期は第X期における高額特定資産の取得による事業者免税点制度の適用制限を受け、強制的に消費税の課税事業者となります。第X+3期はその適用制限が外れ、基準期間(第X+1期)における課税売上高が1,000万円以下のため消費税の免税事業者となります。

(2)消費税計算方法(第X期以降)
 第X期及び第X+1期は、第X-1期に消費税簡易課税制度選択届出書を提出しますが、各基準期間(第X-2期及び第X-1期)における課税売上高が5,000万円超であるため、簡易課税を適用することはできず原則の方法により計算します。

 それでは、第X+2期は基準期間(第X期)における課税売上高が5,000万円以下のため、簡易課税の適用を受けられるでしょうか。

 結論は、第X+2期は簡易課税により消費税を計算することとなります。

 簡易課税に関して高額特定資産を取得することで一定期間制限を受けるのは、その取得した課税期間以後、新たに簡易課税制度の適用を受けるべく消費税簡易課税制度選択届出書を提出しようとする場合です。その取得した課税期間より前に既に消費税簡易課税制度選択届出書を提出している事業者においては、特に制限を受けません。通常通り基準期間における課税売上高が5,000万円以下かどうかで判断すればよいことになります。従って、上述のケースの場合、第X+2期は簡易課税の方法により消費税を計算するため、第X期から第X+2期の間に著しく課税売上割合が変動したとしても、仕入れに係る消費税額の計算上特に調整する必要はありません。このケースのように、簡易課税制度の適用制限を受けないのは、高額特定資産の取得日の属する課税期間より前の課税期間に消費税簡易課税制度選択届出書を提出している場合です。高額特定資産の取得日よりも前に届出書を提出したとしても、もしその取得日と届出書の提出日が同じ課税期間である場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされてしまいます。その結果、第X+2期は原則課税の方法により消費税を計算することになります。

 高額特定資産を取得した課税期間より前に消費税簡易課税制度選択届出書を提出している場合には、たとえ一定期間課税事業者が強制されたとしても、その期間原則課税が強制されているわけではありません。その一定期間において基準期間における課税売上高が5,000万円以下であれば簡易課税により消費税を計算することになります。従って、高額特定資産を取得したから簡易課税の適用を受けられない、と早合点すると結果的に誤った計算方法により消費税の申告納付することになりますので注意してください。

 高額特定資産を取得した場合でも、状況によっては簡易課税制度を利用して上手く節税につなげることができるかもしれません。投資計画の段階から検討する必要がありますので、自社に有利な消費税の制度はないか、専門家を上手く活用して積極的に検討しましょう。

2017年6月5日 (担当:上田悟志)

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※1 国税庁:消費税法改正のお知らせ (Ⅳ 高額特定資産を取得した場合の中小事業者に対する特例措置の適用関係の見直し)

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