2017年6月 5日

節税目的の養子縁組は有効か?

 現在有効な相続税の節税対策の1つに養子対策があります。養子縁組をすれば、実子がいる場合は1人が、実子がいない場合には2人が法定相続人の数に加えられ基礎控除額が増加し、また、各人が取得する金額が細分化され累進税率の適用が緩和されるため、相続税の効果的な節税が可能となります。

 このため、節税目的で孫などを養子とすることがよくありますが、他の相続人は養子の出現によって自分の取得財産が減少するので、不満を持つことがあります。そうした場合、養子ではない相続人が、「当事者間に縁組をする意思がない」として、裁判で養子縁組みの有効性を争うことも見受けられます。

 はたして節税を目的とする養子縁組はそもそも民法上有効なのでしょうか。

 平成29年1月31日、最高裁は民法上のこの問題について、「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものであ」り、「したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について」「当事者間に縁組をする意思がないときに当たるとすることはできない」と判示し、節税目的の養子縁組であってもそれだけでは無効にならないことを明らかにしました。

 縁組みをする意思があれば、節税などの動機があっても、養子縁組は民法上有効であることはこの判決で確定したのですが、気になるのは、そのような養子縁組の課税上の取扱いです。

 相続税法は、養子の1人ないし2人を相続人の数に算入することが「相続税の負担を不当に減少させる」ときには、税務署長は、その養子の数を相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができると定めています。

 この規定は、相続税の負担回避を目的とする養子を認めない趣旨のものと説明されており、また、相続税負担の不当減少の判断基準については、立法時(昭和63年)には特に定められておらず、そのとき以降の執行及び判例の集積に待つとされていました。

 しかし、現在に至るまで否認された判決・裁決・質疑応答事例等の公開事例は存在していないようであり、したがって、不当減少の判断基準は不明なままです。

 今回の最高裁の判決をふまえると、養子縁組には、①節税目的がなく有効なもの、②節税目的があり有効なもの、③節税目的の有無を問わず無効なものの3つが存在します。①については特に課税上の問題はなく、③は課税上も節税効果が否定されるのは当然なのでやはり争点にはなりません。

 問題は、②の場合に節税目的があることのみをもって「相続税の負担を不当に減少させる」ことになるかどうかです。

 この点についてはよくわからないと言わざるを得ませんが、租税法一般には、節税の動機だけでは否認されない、すなわち、節税以外に合理的な理由や目的があれば否認されないと解する傾向があります。

 また、もともと法定相続人の数への加算に養子の数を1~2人に制限した理由は、民法上有効な養子縁組を相続税法で否認することは極めて困難であり、かつ、個々の養子縁組について節税目的か否かを税務当局だけで判断することは事実上不可能に近いと考えられたためです。すなわち、1ないし2人までの節税はそれを認めると割り切った上での不当減少防止規定ですから、この規定が適用される場面は極めて限定的であると考えられます。

 そうすると、単に節税目的があるだけでは、「不当に減少」と認定されることはなく、養子縁組の目的や理由が社会通念上首肯できるものであるか、養子縁組届出の態様が異常・変則的なものでないか、等の諸事情を総合的に判断して、この規定が適用されるものと解されます。

 以上のことから、税務署長による養子の数の否認規定は、今までもそしてこれからも「伝家の宝刀」に位置づけられると思われます。

 伝家の宝刀が抜かれるであろう具体例は、万が一に備えるという性質上、事前に想定することは困難です。実務的には、少なくとも民法上の有効性に疑義が生じるような養子対策は実行しないことが大切です。すなわち、①養親が認知症であって意思能力が不十分なときに養子縁組をする、②死亡直前の危篤時に養子縁組をする、③養子縁組届出欄に本人が署名をしていない、などの場合には、十分慎重に取り組むべきです。こうしたケースは、民法上養子縁組の有効性が否定される可能性が高いだけでなく、民法上の効力が争われなくても、税務署長の権限で節税効果が否認されるリスクが大きいと考えられます。

 いずれにせよ、今までの取扱いが不明確なところですから、最高裁の判決が出たこの機会に、課税庁が判断基準等の取扱いを明確にすることが望まれます。

2017年6月5日 (担当:後 宏治)

 

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