2017年3月28日

歩道状空地は私道として評価減できるのか

 大規模の集合住宅を建築するなど土地開発が行われる際に、開発許可あるいは容積率や建ぺい率等の緩和の条件として、道路に接する自己所有の宅地の一部につき、堀や壁で遮断せずに一般人が自由に通行できるような区域として設置することを、自治体に求められることがあります。このような区域を歩道状空地といいます。

 【参考画像】東京都中野区HPより転載

 歩道状の公開空地その1

 歩道状の公開空地その2

 このような歩道上空地の相続税法上の評価はどうなるのでしょうか。

 歩道上空地は、一般の人が自由に通行する私人の所有する土地なので、一般的な意味で「私道」に該当すると考えられます。

 国税庁の財産評価基本通達(以下、「評基通」といいます。)では、私道の用に供されている宅地の価額は、自用地の価額の30%で評価することとされ、さらに、私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、私道の価額は評価しないこととされています。

 歩道上空地が、評基通に定める「不特定多数の者が通行する私道の用に供されている」宅地に該当すれば、その評価はゼロになります。

 しかし、今までの課税実務においては、ゼロ評価となる私道の範囲はかなり限定して解釈されていました。

 すなわち、「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは、一般に、通り抜けの道路で現に不特定多数の者の通行の用に供されている場合をいい、この場合には、①道路としての用法に応じて利用され第三者が通行することを受忍しなければならず、②道路内建築の制限により、通行を妨害する行為が禁止され、③私道の廃止または変更が制限される等私有物としての利用が大きく制限され、公共性も強くなり通常の宅地として使用収益する可能性が極めて小さくなることが認められるものをいう※1、とされていたのです。

 この解釈をめぐって、歩道状空地を相続した納税者が税務署と裁判で争っていた事例があったのですが、平成29年2月28日、最高裁は、納税者敗訴の1、2審を破棄し、更に審理を尽くさせるため、高裁に差し戻しました。

 この納税者は、相続財産である歩道状空地について、評基通に定める私道の用に供されている宅地として相続税の申告をしたところ、税務署長から、これを貸家建付地として評価すべきであるとして更正処分等を受けたことから、各処分の取消しを求めたのです。

 原審は、歩道状空地は不当定多数の者が通行する私道の用に供されている宅地には該当しないと判断しました。その理由は、①建物敷地の接道義務を満たすために建築基準法上の道路とされるものは、道路内の建築制限(同法44)や私道の変更等の制限(同法45)などの制約があるのに対し、②所有者が事実上一般の通行の用に供しているものは、特段の事情のない限り、私道を廃止して通常の宅地として利用することも可能であるから、評価通達24にいう私道とは、その利用に①のような制約があるものを指すと解するのが相当であるところ、本件各歩道状空地は、建築基準法等の法令上の制約がある土地ではなく、また、利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用することができる潜在的可能性と価値を有するから、としています。

 ところが、最高裁は、私道として減額されるべき場合は建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定されないとし、私道の用に供されている宅地の減額の要否及び程度は、私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、①当該宅地の位置関係、形状等や②道路としての利用状況、③これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、その宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定する必要があると判示しました。

 その上で、本件各歩道状空地は、都市計画法の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されたものであり、開発した建物等が存在する限り道路以外の用途へ転用することが容易であるとはいえないという事実認定を行い、「原審の判断には、相続税法22条の解釈適用を誤った違法がある」とし裁判官全員一致の意見で、原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しました。

 差し戻し判決でどのように判断されるかには注目が必要ですが、歩道状空地は私道として評価減できる可能性が大きいと思われます。

 今後、不特定多数の者が通行する私道として減額できるかどうかの判断は、現に法令上の道路であり将来廃止変更ができないかどうかのみで判定するのではなく、宅地との関係や道路としての利用状況を踏まえ、行政指導等の制約による事実上の用途変更の難易度が高いか低いかにより判定することになるので、私道の評価をするときには注意が必要です。

2017年3月28日 (担当:後 宏治)

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※1 鈴木喜雄編『土地評価の実務』208頁(大蔵財務協会、2016年)

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