2015年7月 1日

国外転出時課税制度で非上場株式は担保になるか?

 先日、国税庁は、平成27年7月1日から開始する「国外転出時課税制度」に係るFAQと所得税基本通達を公表しました。このレポートでは、中小企業のオーナーに関係のある「非上場株式」の担保に注目してみます。

 非上場会社のオーナーが海外でゆっくり過ごそうとしてしばらく日本を離れ移住する場合で、所有する非上場株式などを含む有価証券等の評価額が1億円以上であるときには、これら有価証券等の譲渡があったものとみなされ、その含み益に対して所得税が課税されます(国外転出時課税制度)。

 5年以内に帰国すれば、この制度の適用がなかったものとして、課税の取消しをすることができますが、いったんは、その所得税を申告の上、納税しなければなりません。

 非上場株式の評価額が大きく納税資金が十分でないときには、一定の手続を行い、納税猶予を5年間(届出によりさらに5年の延長が可能)受けることができます。ただし、オーナーは、猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保を提供する必要があります。

 担保に提供できる財産にはどのようなものがあるのか気になるところですが、平成27年4月に公表されたFAQはその疑問に次のように答えています。

 つまり、国税通則法第50条に掲げる財産のみが担保になるとしています。

 ここで問題なのは、通則法50条における通説的な解釈では、非上場株式は、原則として担保にはならないとされていることです。すなわち、有価証券については、「税務署長が確実と認めるもの」に限って担保とすることができるとされており、実務上は、上場株式など一定のものに限られているため、非上場株式は担保として提供できません※1

 非上場株式以外に担保にできる財産がない場合には、出国することができない、という困った事態が出てくることもありえます。これでは、非上場会社オーナーに対する事実上の出国禁止令になるのではないか?と実務では心配する向きもあったのですが、FAQ公表のすぐ後に改正所得税基本通達が公表され、その懸念が払拭されました。

 改正通達は、次のいずれかの事由がある場合には、申出により課税の対象となった非上場株式そのものを納税猶予の担保として認めることができる、としています(改正所基通137の2-8)。

 国外転出時課税制度では、非上場株式でも一定の場合に担保に供することができます。海外移住を考えている人にとってはある意味当然の取扱いとなっています。

2015年7月1日 (担当:後 宏治)

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※1 平成21年に創設された非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予特例では、特別に、非上場会社の株式の全部を担保提供する場合に限り、これらを担保として認めることとされているにすぎず、国外転出時課税制度においては、このような特別な立法はなされていません。

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